連載「つたえること・つたわるもの」(66)
新着トピック「光免疫療法」を、鍼灸師の勉強会でおさらいする。
連載 2019-05-28
出版ジャーナリスト 原山建郎
5月12日(日)に開催された第25回胎盤臨床医学会大会で、HCI(アメリカ国立がん研究所)の主任研究員、小林久隆医師の招待講演「がんの近赤外線免疫療法」を聞く機会があった。
一度の治療で原発がんも転移がんも治す、健康な細胞に害を与えず、がんの再発も副作用もない、文字通り夢の免疫療法である「光免疫療法(近赤外線光線免疫治療法)」を開発した小林久隆さんは、すでに次期ノーベル賞(生理・医学賞)の最有力受賞候補と目されている、米国在住の日本人研究者である。
日本人受賞者といえば、2002年に「超新星からの宇宙ニュートリノの検出」によりノーベル物理学賞を受賞した小柴昌俊さんがいる。小柴さんと私は、かつて、遠藤周作さんが主宰していた「月曜の会」(月2回の勉強会)のメンバーで、いつも決まって隣の席で講師の話を聞いていた、年上の友人の一人である。
あるとき、ノーベル賞を受賞して間もない小柴さんに「真空という状態を、分かりやすく説明してください」と質問した。すると、「原山さんに分かるように? うーん」と、一瞬の間があり、「整然と詰まっている、かな」という答えが返ってきた。
それは、「ほぼ、真空」である「宇宙空間」をイメージした質問だったのだが、宇宙を生成する巨大なエネルギーが渦巻く、いわばカオス(混沌)状態を想像していたのだが、小柴さんの「整然と詰まっている」という説明は、なぜかストンと腑に落ちた。
宇宙の「混沌」を構成する星間物質の渦巻が、実は「整然」と「詰まっている」という考え方は、大乗仏教中観派の祖・龍樹が説く「空観」にも通じる、魅力的な「真空」観である。
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