連載「つたえること・つたわるもの」(65)
平成の「ブックセラピー」から、令和の「つたわるもの」へ。
連載 2019-05-14
私はこの講座がめざす、「(話す・書く)言葉が(相手に)届く」ことについて、『呪いの時代』(内田樹著、新潮社、2011年)から、次の一文を紹介した。下線表示、太字強調、括弧内の※解説を加えている。
言葉が届くというのはどういうことか。それは「わかりやすく書く」ということではありません。論理的に書くことでも、修辞(※言葉を飾り立て、美しく表現する技術)を凝らすことでも、韻律(※音の強弱・長短・高低、または同音や類音の反復などによって作り出される言葉のリズム)が美しいということでもありません。そんなことはリーダビリティ(※読みやすさ)にとっては二次的なものにすぎません。いちばんたいせつなのは「私には言いたいことがある」という強い思いだと僕は思います。
(同書197ページ)
この85歳の受講者は、自分の戦争体験を〈自分史〉ハイライトにまとめてみたい、という強い思いを持っている。そして、自分が綴る(話す)戦争体験は、〈伝えたい〉思いだけが独り歩きしないよう、戦争を知らない若い世代に〈伝わる〉言葉を選びながら、〈伝えて〉いきたいと考えている。しかし、【それは「わかりやすく書く」ということではありません】という文脈でいえば、「わかりやすく書く」ことにこだわり過ぎると、せっかくの強い思い(伝えたいこと)が「薄まって」〈伝わる〉ことがあるので気をつけたい。
かく言う私は、かつて出版社(主婦の友社)の社員記者として「わかりやすく書く」ことをつねに求められていた。文章の書き方は『主婦の友社の用字用語』のルールがすべて基本、むずかしい専門用語はやさしくかみくだく……。すでに「つたえること・つたわるもの」№2(2016-10-11)『漢語で伝える「名文」よりも、ひらがなで伝わる「達意の文」を』にも書いたが、何よりも、自分の意(伝えたい情報)が、相手に達(メッセージとして伝わる)する「達意の文」は、何よりも思いの強さに支えられている。
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