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連載「つたえること・つたわるもの」(65)

平成の「ブックセラピー」から、令和の「つたわるもの」へ。

連載 2019-05-14

出版ジャーナリスト 原山建郎

 昭和21(1946)年、敗戦の翌年生まれの私は、「(日本を)再する(男)」を意味する、建郎(たつろう)という名前をもらった。このような宿命を背負ったまま、43年間の昭和、31年間の平成を経て、73歳になった今も、時代の節目ごとに、そのミッションがふっと心の底から浮かび上がる。平成という元号が、令和と改まった今、私が生きてきた昭和と平成、それぞれの時代の風や匂い、色や味わいを、どのような言葉を用いて〈伝え〉れば、どのようなかたちで〈伝わる〉のかを、より真剣に考えるようになった。

 それは、先週金曜日、文教大学湘南校舎の春期オープンユニバーシティー(生涯学習講座)で、私が担当する「エピソードで綴る〈自分史〉ハイライト講座」の受講生のひと言に、ハッと胸を衝かれたからだ。

 講座の初めの自己紹介で、私が昭和21年生まれと知った一人の受講者に、「原山先生は、戌年生まれですね。私より一回り下の戌年です」と声をかけられた。私は「そうですか」と応じながら、頭の中で〈12歳上だから、この方は85歳、昭和9年生まれ〉と算盤を弾いた。と、ここまでは歳勘定の話題だった。

 ところが、「この講座に期待することは何ですか?」という質問に、「私は三代前もその前も、ずっと下町育ちの江戸っ子です。小学生だった私は、あの戦争でとても怖い思いをしました。こんな思いを、今の若い人たちにさせたくない。だから、戦争の体験を若い世代に〈伝えたい〉と思うのですが、それが〈伝わる〉ように〈伝える〉ためには、どうすればいいか、その方法を学びにきました」という言葉が返ってきた。「何とかして、私たちの戦争体験を若い世代に〈伝え〉たい、〈伝わって〉ほしいのです」という。

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