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連載「つたえること・つたわるもの」(54)

クオリティ・オブ・デス、リビング・ウイルを考える――その1

連載 2018-12-11

 それでは、医療側がいう延命治療(延命を目的とした医療処置)とは、具体的にはどのような処置をいうのだろうか? 千葉県医師会が作成した「私のリビング・ウイル(事前意志表明書)」(平成29年改訂版)によれば、延命治療を大きく分けると、次の4つの医療(延命)処置をいう。要約して紹介しよう。

①自分の口から栄養を摂れなくなったときの医療の提供
 高カロリー輸液や胃ろう(胃瘻)などによる継続的な栄養補給。高カロリー輸液による栄養補給は、高カロリーな点滴薬を点滴により血管内に供給する。また、胃ろうによる栄養補給とは、内視鏡を使ってお腹に小さな穴を開ける手術を行い、この穴を通して直接胃に栄養剤を補給するもの。この他に鼻チューブにより直接胃に栄養剤を補給する方法もある。

②自力で呼吸ができなくなったときの医療の提供
 人工呼吸器を装着するなどの継続的な呼吸補助。人工呼吸器を装着した場合には、死亡するまでの間、原則として人工呼吸器を外すことはでない。死亡するまでの期間は、それぞれの方の状態により異なる。

③自力で心臓が動かなくなったときの長時間にわたる医療の提供
 心臓マッサージ等の 心肺蘇生や AED の繰返し使用など。心肺蘇生とは、死が迫った時に行われる延命処置で、心臓マッサージ、気管挿管、気管 切開、人工呼吸器の装着、昇圧剤の投与等の医療行為をいう。これらの行為により、一時的に呼吸や心拍が戻ることがある。

④痛みや苦しさの程度に応じた鎮痛剤や鎮静剤の使用による苦痛の軽減
 痛みなどが強い場合には、強い鎮痛剤(麻薬系の鎮痛剤)や鎮静剤を使用することで意識の低下や呼吸が抑えられることがある一方で、これらの薬によって意識の低下が起こることもある。意識の低下を避けたい場合には、「意識が低下するような強い鎮痛剤 等の使用はしないでほしい」旨を記載すること。

※その他、④とも一部重複するが、「延命処置は希望しないが、自分で呼吸ができ心臓が動いている間は、末梢静脈からの点滴による水分補給と苦痛の軽減を希望する。この際、意識が低下するような強い鎮痛剤等の使用はしないでほしい」旨を記載すること。

 まずは、家族と医療施設とのカンファランスで説明される、胃ろうや心肺蘇生など、難解な専門用語の意味をよく理解し、そのうえで「クオリティ・オブ・デス(安らかな死)」を迎えるための選択は何かを考える必要がある。しかし、だれにでもあてはまる最適解は、ない。また、たとえ自分の死を間近にした本人が書いたリビング・ウイル(終末期の医療・ケアについての事前指示書)があったとしても、愛する人の体調の急変、痛みや苦しみを目の当たりにした家族の心は、千々に乱れ、右に左に大きく揺れる。

 ふだんから、家族みんなで「一人称(わたし)の死」を話し合ったことのある家庭では、ひとり一人の「クオリティ・オブ・デス(安らかな死)」について、共通の理解がある。しかし、それでも人の気持ちはそのときどきで変わるものだから、家族のひとり一人が「リビング・ウイル」を書くことによって、「一人称(わたし)の死」と向き合う機会をもつ必要がある。

次回のコラムでは、具体的な「リビング・ウイル」について考えてみたい。

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