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連載コラム「白耳義通信」26

「ベルギーのある会社」

連載 2018-11-15

鍵盤楽器奏者 末次 克史

 11月中旬というのに就寝中、蚊の音に悩まされるとは思いもよりませんでした。それもその筈。例年、11月の最高気温は10℃を切っているのですが、今冬は10℃台半ば。10月末にベルギー南部で初雪を観測したものの蚊にとってはまだまだ生息しやすい環境のようです。

 さて今月はベルギーのある会社を取り上げたいと思います。ゲント(Gent)にある Image-Line というソフトウェア会社です。今から24年前にビデオ・ゲームを作る会社としてスタートしました。現在はダンス・ミュージック系のアーティストから絶大な支持を得ている FL Studioという、通称 DAW(Digital Audio Workstation)と呼ばれる音楽作成ソフトを開発しています。

 この DAW と呼ばれるソフトは以前スタジオでミュージシャンが集まって録音していた作業を自宅ですることができるもので、音声や楽器の音をパソコンに取り込み、編集、楽曲制作を行います。

 話は飛びますが、作曲家の冨田勲氏が自身の音楽に取り入れたのがシンセサイザーという電子楽器。氏が衝撃的な作品を世に出した1970年代当時は非常に高価なものでしたが、80年代に入り YAMAHA が DX7 発売し、一般に受け入れられるようになりました。

 それが今では同じ DX7 の音をパソコン上で再現できるソフトウェア・シンセサイザーと呼ばれるものに取って代わり、パソコン一台あれば音楽的な知識が余りなくとも自由に音楽が作れるようになったわけです。

 FL Studio のユニークな点は、一度購入すればバージョンが上がってもアップデート料金を支払うことなく最新のバージョンが使えるという「生涯アップデート版」があることです。若者に取って毎年のように新しくなっていくソフトウェアに度々お金を払うのも難しい場合もあるでしょう。そう意味では音楽の裾野を広げた画期的なソフトウェアといえるかも知れません。

 またバーチャル・ボーカル音源「初音ミク」(クリプトン・フューチャー・メディア)に刺激を受け、ユーザーとのやり取りから公式マスコット FL chan を誕生させたりと、スピードと柔軟性も持ち合わせている会社です。

 毎夏、ベルギーで開かれる世界最大のエレクトロニック・ダンスミュージック・フェスティバルに参加するアーティストは、このようなベルギーの会社に支えられています。

【プロフィール】
 末次 克史(すえつぐ かつふみ)

 山口県出身、ベルギー在住。武蔵野音楽大学器楽部ピアノ科卒業後、ベルギーへ渡る。王立モンス音楽院で、チェンバロと室内楽を学ぶ。在学中からベルギーはもとよりヨーロッパ各地、日本に於いてチェンバリスト、通奏低音奏者として活動。現在はピアニストとしても演奏活動の他、後進の指導に当たっている。ベルギー・フランダース政府観光局公認ガイドでもある。

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