PAGE TOP

連載「つたえること・つたわるもの」(45)

和製漢語・和製英語のフィーリング、現代中国の「簡体字」感覚。

連載 2018-07-24

 明治以降、日本人の「和魂洋才」をフルに活用して作られた和製英語は、日本人独特の感性をみごとに表現している。たとえば、キャッチボール(catch ball)は和製英語で、正しい英語はプレイキャッチ(play catch)だが、和製英語の「ボールを捕る(捕る+ボール)」イメージのほうが、日本人の感覚に合っている。同じように、正しい英語のバトンパス(baton pass)よりも、和製英語のバトンタッチ(baton touch)のほうが、次走者にバトンを手渡すタッチの手触り感を、よりリアルに伝えてくれるように思う。
▲バックミラー(後ろ+鏡)/リアビューミラー(rearview mirror)、▲モーニングコール(朝+電話)/ウェイクアップコール(wake-up-call)、▲ジェットコースター(高速+滑走用そり)/ローラーコースター(roller coaster)、▲ゴールデンタイム(黄金+時間帯)/プライムタイム(primetime)、▲ノートパソコン(帳面+個人用コンピュータ)/ラップトップコンピュータ(laptop computer)、▲キーホルダー(鍵+保管)/キーリング(key ring)、▲クーラー(冷やす装置)/エアコンディショナー(air conditioner)、▲ゴールデンウィーク(黄金+週間)/×ゴールデンウィークホリデイズ(golden week holidays)、▲グレードアップ(等級+昇格)/アップグレード(upgrade)、▲マナーモード/サイレントモード(silent mode)、▲ブラインドタッチ(目隠し+触れる)/タッチタイピング(touch typing)、▲ウインカー(点滅式方向指示器)/ターンシグナル(turn signal)

 また、戦前の旧制高校でよく使われたドイツ語・英語交じりの隠語(スラング)もなかなか面白い。
●ゲルピン(金がない)/ゲルト(Gelt=独・金)+ピンチ(pinch=英・窮状)、●バックシャン(背中から見ると美人)/バック(back=英・背中)+シェーン(schoen=独・美しい)、●ゼミコン(ゼミの飲み会)/ゼミナール(seminar =独・演習)+コンパ(company =英・交際)

 さて、かつて漢字文化圏の盟主であった中国は、中華人民共和国が成立して間もない1951年、毛沢東が指示した文字改革をきっかけに、現在の中国はとうとう「簡体字」の国になってしまった。日本で用いられる漢字も、戦後は旧字体(舊字體≒繁体字)から新字体に移行したので、他国のことはとやかく言えないが、かつては漢字の筆談で双方の意志を伝えたが、現在ではそれもままならなくなった。

 『中国の漢字問題』(蘇培成・尹文武傭編、大修館書店、1999年)を取り上げた書評ブログ「松岡正剛の千夜千冊205夜」には、簡体字の作り方、4つのルールが解説されている
(1)筆画が複雑な繁体字はできるだけ簡体字にする。(省略、字形変更)
(2)筆画が簡単な古字があるものはそれにおきかえる。(代替)
(3)筆画が多く古字がないものは同音の字とおきかえる。(代替)
(4)複雑なツクリを同音の簡単なツクリにする。(字形変更、新字)

 参考までに、簡体字・新字体を列挙する。旧字体(繁体字)については、あるもののみを加えた。
★飞(飛)、丰(豊・豐)、风(風)、说(説)、话(話)、谈(談)、饭(飯)、馆(館)、钱(銭・錢)、钉(釘)、乐(楽・樂)、斗(鬭・鬥)

 電車の優先席(シルバーシート)には、日本語、英語、中国語、韓国語の表示がある。たとえば、「からだの不自由な方(日本語)」は、英訳の「disabled passengers」がわかりやすいが、中国語の「行动(動)不逞者」からは、「不逞の輩(不届きな奴)」を連想してしまった。ちなみに、北京の地下鉄には優先席を譲る順番を「老幼病残孕(老人、幼児、病人、障害者、妊婦)」と書かれているのだそうだ。

【プロフィール】
 原山 建郎(はらやま たつろう) 
 出版ジャーナリスト・武蔵野大学仏教文化研究所研究員・日本東方医学会学術委員

 1946年長野県生まれ。1968年早稲田大学第一商学部卒業後、㈱主婦の友社入社。『主婦の友』、『アイ』、『わたしの健康』等の雑誌記者としてキャリアを積み、1984~1990年まで『わたしの健康』(現在は『健康』)編集長。1996~1999年まで取締役(編集・制作担当)。2003年よりフリー・ジャーナリストとして、本格的な執筆・講演および出版プロデュース活動に入る。

 2016年3月まで、武蔵野大学文学部非常勤講師、文教大学情報学部非常勤講師。専門分野はコミュニケーション論、和語でとらえる仏教的身体論など。

 おもな著書に『からだのメッセージを聴く』(集英社文庫・2001年)、『「米百俵」の精神(こころ)』(主婦の友社・2001年)、『身心やわらか健康法』(光文社カッパブックス・2002年)、『最新・最強のサプリメント大事典』(昭文社・2004年)などがある。

人気連載

  • マーケット
  • ゴム業界の常識
  • 海から考えるカーボンニュートラル
  • つたえること・つたわるもの
  • ベルギー
  • 気になったので聞いてみた
  • とある市場の天然ゴム先物