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連載「つたえること・つたわるもの」(36)

なにかしてあげる≦いっしょにいてあげる≦その人のために祈る

連載 2018-03-13

 震災直後、テレビCM自粛の合間で、毎日のようにACジャパン(日本広告機構)の放送が流れた。

 ひとつは、金子みすゞの詩が収められた『わたしと小鳥とすずと――金子みすゞ童謡集』(JULA出版局、1984年)にある、「こだまでしょうか」という詩が朗読された。「こだま」を漢字で書くと、木魂(霊)となるが、「ごめんね」という子どものたましい(心の奥底にある深部の心)が、もう一人の「(ぼくだって)ごめんね」という子どものたましいをやさしく揺さぶる、その共鳴するさまを「こだま」ととらえた。

 「遊ぼう」っていうと 「遊ぼう」っていう。/「馬鹿」っていうと 「馬鹿」っていう。
 「もう遊ばない」っていうと 「遊ばない」っていう。/そうして、あとでさみしくなって、
 「ごめんね」っていうと /「ごめんね」っていう。/こだまでしょうか、いいえ、誰でも。
(「こだまでしょうか」より)

 もう一つは、宮澤章二の『行為の意味――青春前期のきみたちに』(ごま書房新社、2010年)にある、「見える気持ちに。」の詩である。だれにも「見えない」けれど、だれにでも「見える」もの、それを、お互いの「こころ」を行き交う「こころづかい」「おもいやり」、「こころ」の(往復)宅急便ととらえた。

 「こころ」はだれにも見えないけれど/「こころづかい」は見える
 「思い」は見えないけれど/「思いやり」はだれにでも見える
(「見える気持ちに。」より)

 また、被災地を支援するさまざまなキャンペーンタイトルに、連帯をあらわす「きずな(絆)」が盛んに使われるようになり、その年の「2011年を象徴する漢字」には「絆(きずな)」が選ばれた。「きずな(絆)をむすぶ・ふかめる・つよめる」などの言葉もよく使われるようになった。しかし、7年後のいま、私たちと被災者との「きずな」は、しっかりとむすばれているか? どんどんふかまっているか? さらにつよめているか? またあるいは、私たちの心を被災者に「つたえる」努力をじゅうぶんしているだろうか。

 ここで、被災者に「つたえる」ための手がかりに、「絆」を『字統』(白川静著、平凡社、1995年)から、「つなぐ・つたふ・むすぶ」を『字訓』(白川静著、平凡社、1994年)から、その一部を抜き書きする。

(ハン・バン/きずな・つなぐ) 馬のきずなの意(※語源的には、騎綱・引綱説などがあり、いずれも綱=つな、であることから、きづなが正しいのではないか)。すべてのものをつなぎとめること。

つなぐ〔繋・認〕 綱をつける。綱でむすびつけることをいう。「繋(つな)ぐ」は細く長いものを結びつけることで、ものの繋属(※つなぎつけること)することをいい、「認(つな)ぐ」はその両者の関係を求め、証明することをいう。

つたふ〔伝・傳〕 此方から彼方へと何かをつたって進むことで、「つつ」「つた」がもとの形。その動詞形である。つたって移動することから、他に伝え知らせること、伝え渡すこと。また、以前からあるものを伝えつぐことをいう。空間的にも時間的にも、次々と伝え移ること。国語の「つたふ」は「つた」のように延びてゆく意であるが、伝は転々として他に赴くことをいう。

むすぶ〔結・掬〕 紐のように長いものの両端を結ぶ。またある部分を結びかためることをいう。転じて約束する意に用いる。両手をあわせて、ものをすくうことをいう「掬(むす)ぶ」も、同系の語である。

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