連載コラム「ゴム業界の常識・非常識」⑦
NASAで使っているタイヤは米国製?
連載 2017-10-16
加藤事務所代表取締役社長 加藤進一
2017年9月に世界一周出張をしてきました。世界一周は、今年は3月についで2回目です。日本を出発して、ベトナム、インドと当社の合弁会社2社で打ち合わせ、その後、ドバイ、イスタンブールで乗り継ぎ、ブラジル・サンパウロへ、現地ゴム練り会社3社と打ち合わせて、米国ヒューストンへ、そこでゴム練りメーカーとEPDMメーカーで打ち合わせ、さらにメキシコに行き、ゴム練り会社と日系ユーザーへ、そして、メキシコ地震発生の数時間前にメキシコの空港を出発して、間一髪で、日本に戻りました。2週間の出張でした。ベトナムでもゴム練り工場に行きましたので、この出張でコンパウンド会社(ベトナム、インド、ブラジル、米国、メキシコ)7社を訪問という世界のコンパウンド会社めぐりでした。
ヒューストンで1日、時間が空いたので、NASAのジョンソン管制センターに見学に行ってきました。「こちらヒューストン、応答どうぞ」というあの管制センターです。今回は事前に予約して一般観光コースではなく、NASAの内部施設を見せてもらいました。宇宙ステーションを実際に管制している部屋やかつて月にアポロ宇宙船を打ち上げたロケット、またスペースシャトルを上に乗せて運んだジャンボジェットB747機を見てきました。
NASAではかつて月の表面で走行する車を開発していました。下の写真にありますが、重量が地球の1/6の月で、走行する車です。そのタイヤはゴム製。また衛星の重量を減らすため、ゴムではなく、繊維ベルトを使った車も開発されていました。実際米国の砂漠で走行実験をしたそうです。NASAではタイヤメーカーと協力して、このようなタイヤの開発をやっていました。
アポロ宇宙船を月に打ち上げるサターン型ロケットを、打ち上げ場所まで運ぶ巨大な重量物トレーラー(長いロケットを横にして、たくさんのタイヤがついたトレーラーユニットで運ぶ)も実物が展示されていました。そのタイヤはBF GOODRICH製です。BF GOODRICHがミシュランに買収される前のものです。このタイヤも特別製です。
またスペースシャトルを着陸した場所からフロリダのケネディー打ち上げセンターまで運ぶのは、ジャンボジェットB747を改造した特別機です。ジャンボジェットの上にスペースシャトルを載せて、それで飛行します。すごいものです。スペースシャトルが重く、そのため、ジャンボジェットを軽くするため、機内内部は椅子をほとんど外し、内装の壁も外し、機内はほとんど外壁がむき出しの状態です。このジャンボジェット機のタイヤですが、これはGOODYEAR製でした。ジャンボジェットのタイヤは、たしかブリヂストン、ミシュランでも生産していましたが、さすがNASAは米国GOODYEAR製のタイヤを採用していました。そういえばB747機のタイヤは1本90万円(ミシュラン製の場合)だとか。さらに飛行機のタイヤで一番タイヤにとって過酷なのは、中央部の主輪のタイヤ(よく、着陸の時に白い煙がでるタイヤ)ではなく、前輪のタイヤだそうです。それは飛行機が地上で曲がるとき、この前輪のタイヤの方向を、無理やり油圧で左右に動かしますが、これがタイヤの構造にとって一番きついそうです。(某タイヤメーカー技術者談)。
NASAは、スペースシャトル以降、国民の同意が得られず、予算をだいぶ縮小してきています。現在は国際宇宙ステーションの運営をしており、また火星を有人飛行するプロジェクトが進められています。また最近では宇宙空間に観光目的でロケットを打ち上げる民間会社のために、宇宙に行くトレーニングを請け負っているそうです。
スペースシャトル「チャレンジャー号」の打ち上げ時の爆発事故の原因は、ゴム製Oリングが0℃以下になって弾性を失い、固着し、打ち上げ当日気温が大変低温であったため、Oリングの隙間から高温のガスが漏れ、それがロケット燃料タンクを損傷させ、発火爆発したと言われています。当日、メーカー技術者は低温でのOリングの下限温度の懸念をNASA側に連絡していたそうです。事故後、Oリングは追加され、何重もの対策がとられました。
今回、NASAに行ってもゴム製品が気になります。月や火星に行っても、その表面で走行する車にはタイヤがいります。そこでゴムが使われる可能性があります。今回、NASAで使われているゴム製品はやはり米国製でした。
-
連載コラム「ゴム業界の常識・...
タイヤの製造方法
連載 2023-10-04
-
連載コラム「ゴム業界の常識・...
フッ素ゴムが製造、使用ができなくなる?
連載 2023-08-08
-
連載コラム「ゴム業界の常識・...
中国でのEV車は日本のゴム会社にとってマイナスか?
連載 2023-06-07
-
連載「ゴム業界の常識・非常識...
ゴム業界で注目されるサステナブルな材料、製法
連載 2023-04-04
-
連載「ゴム業界の常識・非常識...
天然ゴムの国内価格が上がると、合成ゴムの国内価格が上がる?
連載 2023-02-13
-
連載「ゴム業界の常識・非常識...
飛行機のタイヤではどのタイヤが一番酷な使い方をされるのか?
連載 2022-12-19
-
連載「ゴム業界の常識・非常識...
インドのゴム人はマスクをしていなかった
連載 2022-10-11
-
連載コラム「ゴム業界の常識・...
アメリカのゴム人は新型コロナのマスクをしていなかった
連載 2022-08-18
-
連載コラム[ゴム業界の常識・...
世界はどんなゴム技術に注目しているのか?
連載 2022-06-06