【シリーズ】SUSTAINABLE & RUBBER
ブリヂストン、ソフトロボットハンドをタイヤと同じくらい当たり前の存在へ-1台で多種多様な日用品をつまむ、つかむ、つつむ
SUSTAINABLE&RUBBER 2023-09-11
ソフトロボティクスは、柔軟な素材により構成されるソフトロボットを扱うロボット工学で、近年注目度が高まっている新技術領域だ。ゴム素材との相性も良く、ブリヂストンは国内タイヤメーカーで唯一この領域に取り組んでいる。2023年1月に、ソフトロボットハンドの開発・事業展開をする同社初の社内ベンチャー「ソフトロボティクス ベンチャーズ」を設立したことは記憶に新しい。同社はソフトロボティクス事業を通じ、ゴムの力ですべての人の生活を支えることで、同社企業コミットメント「Bridgestone E8 Commitment」で掲げる「Empowerment すべての人が自分らしい毎日を歩める社会づくり」にコミットしていく。
ゴム人工筋肉を曲げたことがブレイクスルー
ブリヂストンが開発したソフトロボットハンドの基盤技術となっているのが、ゴム人工筋肉「ラバーアクチュエーター」。同社のタイヤや油圧ホースの技術を適用したゴムチューブと、それを覆う高強度繊維のスリーブから構成される高分子複合体だ。繊維は電車上部にあるパンタグラフのような特殊な編み方になっており、それで覆われた内管の両端を金具で固定した構造となる。
ゴムチューブに空気や油を注入し圧力を加えることで、チューブが膨らみ人の筋肉のように収縮する。その際発生する力が、エネルギーを動作に変換するアクチュエーターの機能を発揮する。
同社ではおよそ40年前から有していた技術だったが、「そこに『曲がる』機能を付与したことが、一つのブレイクスルーとなった」(ソフトロボティクス ベンチャーズ)。ゴムチューブとスリーブの間に薄い金属板を入れることで湾曲が可能となり、ソフトロボットハンドの開発が大きく躍進。この「湾曲」できるアクチュエーターを「指」として活用した。人の手でいう爪側の側面に、骨のように板バネが入っている。
ラバーアクチュエーターの柔軟性、耐衝撃性、軽量・高出力といった特徴を活かし、様々な重量、硬度、形状のモノを掴むことが可能。複雑な形状のものを持つ際も、厳密な位置の制御が不要だ。また、触れたものに追従し、力を出すこともできる。様々な分野への用途展開が期待される。
目的は人の手の模倣ではない
ソフトロボットハンドの「指」は合計で4本。人の手と同様に、5本の方が良いのでは?というユーザーからの意見もゼロではなかった。
「5本指の場合、使用しない指が出てきて無駄になってしまうことがある。また3本指の場合も、円状のモノに対しては有効だが、箱状など四角いモノに対して支えるバランスが安定しなくなる。そういった背景から、4本が適切な数だと結論付けた」(同)
そもそもソフトロボットハンドは、人の手そのものの模倣を目的とはしていない。
ピースピッキング現場での活用を推進
ソフトロボティクス ベンチャーズが目指すのは、人とロボットが共生する社会の実現、その中で起こる課題解決だ。近年、eコマースの拡大等により物流需要が増加する一方で、少子高齢化に伴う労働力不足や新型コロナウイルスに起因する非接触ニーズの高まりを受け、物流業界では作業の自動化が求められている。ロボットに仕事を奪われる心配よりも「ロボットの手も借りたい」のが現状だ。
まず同社では、物流現場でのピースピッキング(単品ごとに摘み取るようにピッキングすること)など、現在、人に頼っている様々な作業の自動化の実現を目指している。単一の商品を扱うピッキングでは挟むグリッパータイプや吸引して持ち上げるバキュームタイプが主流だが、扱う商品が多岐にわたる場合、人の器用さに頼らざるを得ないのが実情だ。同社は、ソフトロボットハンドを「第3の手」と称し、グリッパーでも吸着でもない、ピースピッキングに対応したツールとして提案。そのターゲットとしているのが、多種多様な“日用品”だ。
「当社のソフトロボットハンドは、ハンドの交換をせず、この1台で様々な大きさ・重さ・硬さのモノに対し、つまむ、つかむ、つつむといった動きを使い分けて取り扱うことができる。それは非常に大きな競争優位性だと考えている」(同)
ロボットと人が共生する社会の実現に向けて
同社はロボットと人が共生していくために、「安心感につながる“やわらかさ”は無視できない要素だ」(同)と話す。
そのメッセージを体現した活動の一つが、2023年6月開催の「FOOMA JAPAN 2023」出展だ。同展示会への同社出展は初めてのこと。通常よりもひと回り小さくしたソフトロボットハンドを、洗練された美しいブースデザインとともに初出展し、おにぎりや果物等を模したサンプルを、ロボットが繊細な動きで運ぶデモンストレーションを公開した。ハンドのサイズは社員の手をモデルにしたといい、ロボットが隣にいても圧迫感や違和感を覚えない、“親しみやすさ”“やわらかさ”の表現を追求した。
タイヤと同じくらい当たり前の存在へ
「今、まさにソフトロボティクスの時代が到来したと感じている。これは社内メンバーの言葉だが、『ロボットは人の“働く”、そして“世界”を拡張していく存在だ』と。その通りだと思うし、今後当社としてもこの考えを発信していきたい。例えばソフトロボットの遠隔操作によるピースピッキングで、様々な身体障害を持つ人でも従事できるような、すべての人々の働き方を拡張するような取り組みにも挑戦していきたい。今以上のサイズ展開等のラインアップ拡充は予定しておらず、まずはスペックを絞って着実にできることを増やしていく」(同)
ソフトロボットハンドを、タイヤと同じくらい当たり前の存在へ。まずは、2030年までに“10億人の目に触れ、100万人の手に触れる”ことを目標に、展示会出展等を通じて認知度向上を図っていく。直近では、11月末開催の「2023国際ロボット展」への出展を予定している。
ゴム報知新聞版「SUSTAINABLE & RUBBER」は、ゴム業界に関連する国や団体、企業などによる「持続可能な社会の実現」に向けた活動に焦点を当てるシリーズです。なお、弊社ポスティコーポレーション発刊のムック本「SUSTAINABLE & RUBBER」(2022)の掲載内容とは異なります。
ポスティコーポレーション発刊のムック本「SUSTAINABLE & RUBBER」(2022)の詳細はhttps://gomuhouchi.com/other/49351/まで。
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