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連載コラム「つたえること・つたわるもの」⑱

おへそを向ける、中心をはずさない、相手から逃げない。

2017-06-13

出版ジャーナリスト 原山建郎
 先月、私が代表を務める遠藤ボランティアグループ(35年前、作家の故遠藤周作氏の提唱で始まった、ベッドサイドでの傾聴をめざす病院ボランティア)の講座(勉強会)に、トレスペクト教育研究所代表・宇都出雅巳さんをお招きして、講演(傾聴に役立つ、しかもあまり伝えられていない話」と演習を受講した。「聞く(声が聞こえる)」と「聴く(「聴」を構成する耳・目・心を傾けて聴く)」の違いは、英語のヒア(Can you hear me?=聞こえてますか?)とリッスン(Listen to me!=私の話をよく聴いて!)の違いだろうか。

 究極の傾聴をめざす私たちに配られたレジュメに、➀コーチングにおける「傾聴」とは?/➁相手の話ではなく、自分の中の話を聴いていませんか?/➂相手の話したいことではなく、自分の聞きたいことを聴いていませんか?/➃相手の話ではなく、相手の言葉だけを聴いていませんか? 4つの問いがあった。

 最初の➀では、「傾聴」には意識の向け方による段階があって、レベル1=内的傾聴(自分自身にだけ意識が向けられている状態)→レベル2=集中的傾聴(自分自身だけでなく相手に対しても意識が向けられている状態)→レベル3=全方位的傾聴(自分を含め、自分の周り360度すべてに意識が向けられている状態)へと進むにつれて、相手の思いが「気配」として感じられるようになる、ということを学んだ。

 たとえば、➁では、「人は相手の話を聞きながら、自分の話(相手の話や言葉に反応した、自分の「潜在記憶」)を聞いている」ことがよくある。たとえば、相手の「昨晩、飲みすぎてね」という話に、あなたが自分の潜在意識から「酒のことか……」と反応した場合、たしかに耳では相手の話を聞きながら、脳では自分の方に意識が向いている。つまり、「自分の中の(潜在意識にある)話を聴いている」ことになる。

 宇都出さんは、レベル1(内的傾聴)の特徴を、自分の記憶に「意識の矢印」が向いた状態、と説明する。

 私はこの「意識矢印」を一歩進めて、「思いベクトル」と呼びたい。「ベクトル」とは、向き(方向)と大きさを持つ量のことだが、この「思い」には矢印(方向)だけでなく、重さ(エネルギー量)もある。軽い「思い」はすぐに消えるが、重たい「思い」は大きなエネルギーを放射する。それだけに、相手の心を癒すあたたかさともなり、あるときは、相手の心を鋭く切り裂くつめたさともなるのだが……。

 さて、相手の「○○の方がいいと思う」という話に、「それはいいね(ダメだ)」と意見を述べるのは、自分の記憶(経験)をもとにした言葉だから、意識の矢印は「相手」ではなく「自分」に向いている。

 ➂では、レベル2(集中的傾聴)に求められる(相手に意識の矢印を向ける)3つのコツが説明された。

 (1)話し手が話したことを、そのまま繰り返す(『つまり、いまおっしゃった「○○」なんですね』)。
 (2)話し手が使った言葉を用いて質問する(『いま話された「○○」は、たとえばどういうことですか』)。
 (3)思ったことを、I(アイ)メッセージで伝える(『お話にあった「○○」は、私には……と思えた』)。

 傾聴の演習では、二人ずつペアを組んだ。聞き手役は親指を立て、「意識の矢印」が「自分に向いた」ときは自分を指さし、「相手に向いた」ときは相手を指さす。たとえば、話し手役が「私は●●を大切にしています」と語り、それを受けた聞き手役の発言が「私の場合は△△を大切にしています」なら、自分を指さし、「なぜ(あなたは)そう考えたのですか?」なら、相手を指さす。途中でその役割を交代する。実際に「指さし」をやってみると、相手の話をよく聞いて発言したつもりなのに、「意識の矢印」が自分をさすことが多かった。宇都出さんは、この親指の「指さし」を「見える化」(無意識の視覚化)と呼んでいる。

 ここで、私がかつて大学や専門学校で「コミュニケーション論」を講じていた経験から、相手の記憶に働きかけて、「意識の矢印」を相手に向けるための参考意見として、次に挙げる2つの方法を提案した。

 (1)質問を考えながら、相手の話を聴く→話を全部聞いたあとで、改めて質問をひねり出すのは難しい。
 (2)相手の記憶に働きかける言葉→「たとえば? それは、なぜなの? それをひと言でまとめると?」

 もうひとつ、➃の問い(相手の言葉だけを聴いていませんか?)では、話に出てくる「事柄」だけに焦点を当てやすい。その「事柄」の背景にある「人」の気持ち、思い、願い、話し手の視点に焦点を当てて聴くコツは、相手に投げかける「ユー・クエスチョン」にある。たとえば、相手からの問い「私はあがり症でうまく話せません。私の話を聞いてどう思われましたか?」に対し、「あなたはあがり症に見えない」「いや、うまく話せているよ」などの答えは、「人」の思いではなく、あがり症という「事柄」に焦点が合っている。「意識の矢印」を相手に向けるには、相手からの問いを「あがり症であるあなた自身は、周囲からどう思われていると思いますか?」とそのまま質問者本人に返すことで、あがり症である(と思い込んでいる?)自分が「周囲の目」をどう不安に感じているのか、その「人」の具体的な悩みを聴くことが可能になる。

 さらにもうひとつ、相手の話を注意深く「見て・聞いて・感じて」聴く、あるいは聴きわける意識で聴くことが大切だと、宇都出さんは強調する。人を引きつける話し手は、その話の中に「見える・聞こえる・感じる(匂い・風・温度)」言葉を多く用いるといわれるが、この場合は聞き手の方が相手の話の中から、「見て・聞いて・感じて」聴きわける力、編集工学研究所・松岡正剛所長ふうにいえば「イメージ(事柄の輪郭)をマネージ(言葉や画像に編集)する」力を逆方向に活用することで、実際にマネージ(編集)された「言葉」から、「人(話し手)」が伝えたい「事柄」のイメージを連想しながら「聴く」ことができるだろう。

 ところで、遠藤ボランティアグループがめざす活動のひとつに、病院や介護施設における「究極の傾聴」がある。たとえば、きょうは話をしたい気分ではない人、病気や高齢などの理由で話せない人から聴く、つまり「聞かないで聴く」ことである。それは15年前、遠藤ボランティアグループ結成20周年記念講演会の講師・河合隼雄さん(当時は文化庁長官)が紹介した次のエピソードが、大きなヒントになっている。

 ユング派の心理学者で臨床家でもある河合さんは、50分間のカウンセリング中、ひと言もしゃべらなかった不登校の男子中学生の話をされた。2回目のときも、彼は黙ったままだった。河合さんも黙っていた。しかし、3回目からは、自分の方から堰を切ったように不登校の理由を話し始めた。あとから聞いた話によると、「あの先生な、ようけ話を聞いてくれはるんや」と、その中学生が母親に言っていたという。

 このエピソードを解くカギは、『こころの天気図』(河合隼雄著、三笠書房、1994年)に示されている。

 【分裂病の心理療法家として名高いジョン・ウィアー・ベリーという人がいますが、その人がこう言っていました。どんな患者さんに対しても、それを鎮めようとか治そうとかするのではなく、こちらが「自らの中心をはずすことなく、ずっとそばにいる」というのをやり続けると、収まってくる、と。「自らの中心をはずすことなく、ずっとそばにいる」――これはカウンセリングにも言えることで、最高の方法ですね。言語を絶するほど難しい。そしてエネルギーのいることですが。(中略)「中心」というのは、自分の中心でもあるし、相手の中心とも言える。体の中心、心の中心としても捉えられる。さらには、その場の中心や、大きく言えば宇宙の中心というのもイメージできる。単純に説明できるものではないと思いますが、人と会う時、中心に関するファンタジーというか、イマジネーションを働かせてみるのは大事じゃないかと思います。中心からはずれないでいることが難しいということは、つまり、いかに我々が中心からはずれやすいかということです。】 
(同書「相談する 相談される」203~204ページ)

 講演の中で「中心をはずさないためのコツは、自分のおへそを、つねに相手のおへそに向けておくことです。私はひと言もようしゃべりませんでしたがね」と微笑む河合さんは、ひと言も言葉を交わさなかったカウンセリングの間じゅう、相手の中学生から中心をはずさなかった。普通なら「何か話してくれなきゃ、話にならないじゃないか」とさじを投げるところだが、河合さんは長い沈黙の間、自分のおへそを中学生のおへそに向けていた。どこまでも「中心」をはずさない覚悟で、最後まで相手から逃げなかったのである。

【プロフィール】
 原山 建郎(はらやま たつろう) 
 出版ジャーナリスト・武蔵野大学仏教文化研究所研究員・日本東方医学会学術委員

 1946年長野県生まれ。1968年早稲田大学第一商学部卒業後、㈱主婦の友社入社。『主婦の友』、『アイ』、『わたしの健康』等の雑誌記者としてキャリアを積み、1984~1990年まで『わたしの健康』(現在は『健康』)編集長。1996~1999年まで取締役(編集・制作担当)。2003年よりフリー・ジャーナリストとして、本格的な執筆・講演および出版プロデュース活動に入る。

 2016年3月まで、武蔵野大学文学部非常勤講師、文教大学情報学部非常勤講師。専門分野はコミュニケーション論、和語でとらえる仏教的身体論など。

 おもな著書に『からだのメッセージを聴く』(集英社文庫・2001年)、『「米百俵」の精神(こころ)』(主婦の友社・2001年)、『身心やわらか健康法』(光文社カッパブックス・2002年)、『最新・最強のサプリメント大事典』(昭文社・2004年)などがある。

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