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連載コラム「つたえること・つたわるもの」⑯

タイトルは10~20字、リードは160字、解説は400字。

2017-05-09

                                出版ジャーナリスト 原山建郎

 日本人の話は、やたら前置き(状況説明)が長い、何を言いたいのか(伝えたいこと=結論)、最後まで聞かないとわからない、とよく言われる。いっぽう、欧米人の話は、ズバリ伝えたいこと(結論)が先にくる。その歯に衣着せぬ物言いと、こちらも意見をすぐに求められるので、圧倒されることも少なくない。

 「圧倒されることも少なくない」と書いたが、正確に言うと「圧倒されることが多い」である。つまり、私たち日本人は、日ごろから「婉曲(遠回しに言う)」的な表現を用いることが多く、ストレート(率直)な物言い、とにかく即答するのが身上の欧米人には、それが「まどろっこしい」と感じられるようだ。しかし、右脳ハート(情動)優位の日本人は、草むらの「虫の音」を、心地よい「虫の歌声(singing of insects)」と聞くのに対して、左脳マインド(情報処理)優位の欧米人は耳障りな「虫の騒音(noises from insects)」に聞こえるといわれるように、まずは、お互いの言語環境の背景にある文化の違いを理解する必要がある。

 一例として、英字新聞社ジャパンタイムズの英語学習サイト『Japan Times ST』の記事(5月5日)から、英語原文タイトル、日本語直訳タイトル、日本語訳タイトルを挙げ、それぞれ検討を加えてみよう。

★英語原文 Sea wall work starts on new U.S. base in Nago(※sea wall work=護岸/防波堤工事)
☆直訳タイトル(※原山私訳) 名護市の新しい米軍基地建設のための護岸工事始まる
◇日本語訳タイトル(※ST編集部訳) 政府、辺野古埋め立て開始

 まず、英語原文(直訳も同じ)は、主語と述語と目的語が明確な・過不足のない・ロジカル(論理的)な説明になっている。Sea wall work starts(護岸工事始まる)だけでもインパクトはあるが、「どこで」「なにが」がないと「正しい英語」はならない。真面目な欧米人が大切にする、左脳マインドの発想である。

 最後のST編集部訳は、あれあれ、日本語の新聞のタイトルそのもの。なるほど、これは英語を勉強したい学生や一般の日本語話者向けの翻訳で、日本人の暗黙知(米軍普天間基地の名護市辺野古移転、政府と翁長知事の対立、最高裁で国の勝訴確定)で行間を忖度(guess)しつつ、「政府・辺野古・埋立・開始」という視覚情報を組み合わせた四つの漢語(漢字熟語)で、右脳ハートに届く仕組みになっている。

 『Japan Times ST』では、英語タイトルの下段に詳細な英文記事(共同通信の配信)が掲載されている。日本の新聞の場合には、短い(簡潔な)メインタイトル、サブタイトル、リード(要約)、本文(説明)という記事構成になっているが、英字新聞(米国のThe New York Timesも含めて)では、先の『Japan Times ST』の記事のように、日本語新聞よりも長い「一目瞭然」のタイトルで、サブタイトルやリードが不要となり、その下に本文記事(説明)が続くというスタイルである。これは表意文字の漢字(漢語)を多用する日本語新聞と、表音文字のアルファベット(英文)を用いる英字新聞の違いによるものであろう。

 さて、日本語の新聞(日刊紙)のトップ記事、雑誌(週刊誌)の車内中吊りポスターでは、タイトル・サブタイトルが右脳ハートに響き、リード(要約)で左脳に訴える、いわば両面作戦をとっている。ここで注目すべきは、これら限られた紙面・ポスターの空間で、新しい情報を「読んでみたい」と思わせるために、いったい何文字程度の日本語を要するのか、あるいは何文字程度の日本語で充分なのか、である。これは、日常のビジネスシーンで求められる報告書や提案書の、「表題」・「要旨」・「解説」の文字数の目安にもなる。

 『日本經済新聞』(5月5日朝刊)に載ったトップ記事のタイトル(表題)、リード(要旨)、コラム記事(解説)をもとに、限られた紙面の制約が生んだ「それぞれの最適文字数」を調べてみよう。

1面「トップ記事」
★メインタイトル 次世代船開発へ提携 9字/▲サブタイトル1 三菱重など国内10社 9字/●サブタイトル2 自動運航や燃費改善 9字/◆リード 三菱重工業や国内建造量首位の今治造船(愛媛県今治市)など10社を超える国内の主要造船会社が次世代船の開発で提携する。自動運行システムや燃費改善につながる新技術などを共同で開発する。リーマン・ショック時を超える造船不況(3面きょうのことば)で国内各社は建造拠点の閉鎖などを迫られている。得意の技術力を生かして高機能化で先行し、韓国・中国勢との価格競争からの脱却を図る。 183字(カッコ内の文字を除くと166字

3面「きょうのことば」(囲み記事)
●タイトル 「船余り」で低価格続く 9字/本文 ▽…環境規制強化などの影響で造船の駆け込み需要が起きた反動から、足元では世界的な「船余り」が起きている。日本船舶輸出組合が発表した2016年の受注量は約372万総トンで、15年の6分の1の水準。リーマン・ショック直後の09年の受注量より約200万総トン下回った。一部の大手造船会社では18年秋以降の新造船がない深刻な状況に陥っている。▽…日本では石油ショックを機に1970年代、80年代にも深刻な造船不況が起きており、今回で3度目。過去2度の不況時は、日本勢の世界シェアが5割を超え、国内設備の統廃合で市場全体の需要を調整できた。だが、15年の建造量世界シェアは日本は20%前後。国内建造量の調整だけで不況を脱するのが難しくなっている。▽…さらに韓国、中国勢は船腹過剰でも安値攻勢を続けており、船価は上昇の兆しが見えない。そうした状況から日本勢は低価格競争から脱しようと考えている。 391字 
※コラムの左端には、「船の建造量ランキング」表も載っている。

 次に、『週刊文春』(5月4日・11日ゴールデンウィーク特大号)の「中吊りポスター」見出しとリード。
★メインタイトル 安倍晋三首相が頼る「運勢」のお告げ 17字/▲前サブタイトル 仰天スクープ 6字/●見出し1 「トランプとは相性ぴったり」 14字/●見出し2 「森友は3月まで。運勢の底は4月4日」 19字/リード 安倍首相に頻繁に「運勢メール」を送る人物がいる。中原伸之元東燃社長(82)。11年前、総裁選出馬の際も「運勢は最高にいい」と背中を押した。安倍首相は「よく当たるんだ」と信頼しており、その影響は経済政策や人事にも及ぶ。「生年月日」と「易経」に基づく“占い”に国家の命運は掛かっているのだ。 143字
これもまた、最近の安倍首相をめぐる暗黙知(トランプ大統領問題、森友・国有地忖度問題、安倍一強内閣の運勢)を下敷きに、さらなる「文春砲」の炸裂を期待させるタイトルとリードが躍っている。

 これらの調査から、「タイトル(表題)は10~20字程度、リード(要旨)は160字前後、コラム記事(解説)は400字前後が望ましい」という結論(目安)が得られた。ちなみに、テレビ局のアナウンサーがニュースを読む速さで、1分間に話せる文字数は約400字(24秒間なら約160字)であるという。上司への口頭報告で、「手短に……」と言われたら〈160字〉で簡潔にコメントし、「わかりやすく……」と言われたら〈400字〉を目安に要領よくレポートすればよい。ほとんどの場合、1分以内の報告で用が足りる。さらに「それから?」「たとえば?」と聞かれたら、〈160字〉程度のコメント追加のチャンス到来である。

【プロフィール】
 原山 建郎(はらやま たつろう) 
 出版ジャーナリスト・武蔵野大学仏教文化研究所研究員・日本東方医学会学術委員

 1946年長野県生まれ。1968年早稲田大学第一商学部卒業後、㈱主婦の友社入社。『主婦の友』、『アイ』、『わたしの健康』等の雑誌記者としてキャリアを積み、1984~1990年まで『わたしの健康』(現在は『健康』)編集長。1996~1999年まで取締役(編集・制作担当)。2003年よりフリー・ジャーナリストとして、本格的な執筆・講演および出版プロデュース活動に入る。

 2016年3月まで、武蔵野大学文学部非常勤講師、文教大学情報学部非常勤講師。専門分野はコミュニケーション論、和語でとらえる仏教的身体論など。

 おもな著書に『からだのメッセージを聴く』(集英社文庫・2001年)、『「米百俵」の精神(こころ)』(主婦の友社・2001年)、『身心やわらか健康法』(光文社カッパブックス・2002年)、『最新・最強のサプリメント大事典』(昭文社・2004年)などがある。

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