連載コラム「白耳義通信 」66
「光の帝国」
連載 2022-03-22
コロナ一色のニュースから、ロシアによるウクライナ侵攻のニュースがテレビ・新聞を賑わせている中、兵庫県伊丹市にあるカリヨン塔は、現在、ウクライナの国旗の色(青と黄)にライトアップされています。また、塔に設置されているカリヨン(フランドル地方の鐘)で、3月3日にウクライナ国歌「ウクライナは滅びず」の演奏が行われました。
日本では「組み鐘」と呼ばれるカリヨン(蘭 Beiaard, 仏 Carillon)ですが、フランドル地方で生まれたもので、歴史に初めて登場したのが 1510年。今から約500年前のことです。17世紀から18世紀にかけて、現在の北ベルギーとオランダでは、200 を超えるカリヨンの音が鳴り響いていたそうです。その後、19世紀に衰退。メッヘレン Mechelen のカリヨン奏者ジェフ・デネイン Jef Denyn が、後進を育てるため、1922年にカリヨン学校を設立したものが現在でも存在し、世界中へ奏者を送り出しています。
さて、先日のニュースで目に留まった記事を紹介しましょう。シュルレアリスムを代表するベルギーの画家といえばルネ・マグリット René magritte。代表作の一つである「光の帝国」L’empire des lumières が、ロンドンで開かれたサザビーズのオークションで、7,140万ユーロ(日本円にして約94億円)で落札。これは2018年、同じくサザビーズで落札されたマグリットの「快楽原則」Le principe du plaisir の2390万ユーロ(日本円にして約31億)を大幅に更新しました。
マグリットは1948年より「昼と夜を同時に一枚のキャンバスに収める」作品を制作し始め、17枚のバージョンを描いています。今回落札されたのは、1961年に制作されたもので、親友のアンヌ・マリー・クロウエ Anne-Marie Crowet のために描かれました。青空が広がっているのに、暗闇に埋もれた家から漏れる窓明かりと、玄関前に外灯があるという、何とも不思議な絵です。この絵を見る度に、深淵に引きずり込まれるような錯覚に陥ります。
記事は、「7,140万ユーロ払えない人は、ヴェネツィアのペギーグッゲンハイムコレクション、ニューヨーク近代美術館でいつでも見られます」と締めくくってありました。ベルギーのブリュッセルにある王立美術館併設のマグリット美術館には、マグリットの他の作品もあります。世の中が落ち着いたら是非、足をお運びください。
【プロフィール】
末次 克史(すえつぐ かつふみ)
山口県出身、ベルギー在住。武蔵野音楽大学器楽部ピアノ科卒業後、ベルギーへ渡る。王立モンス音楽院で、チェンバロと室内楽を学ぶ。在学中からベルギーはもとよりヨーロッパ各地、日本に於いてチェンバリスト、通奏低音奏者として活動。現在はピアニストとしても演奏活動の他、後進の指導に当たっている。ベルギー・フランダース政府観光局公認ガイドでもある。
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