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連載「つたえること・つたわるもの」(108)

小6の夏休み自由研究⇒3・11⇒ひとりの医学生が誕生。

連載 2021-03-09

 ふたつ目の「宝の山」は、長田さんが抱くナメクジへの無類のやさしさである。

 ぼくは小学校3年生の時に、家の庭に咲いているサフィニアをナメクジが食べてしまったのでビールを使って捕まえたが、結果としてはビールでおぼれさせ死なせてしまったのでかわいそうな事をしたと反省した。そこで、4年生の時はナメクジをビールで育ててナメクジの生態を調べた。
(『ナメクジに立ち入り禁止を知らせる研究』「これまでの研究経過」)

 ナメクジを実験で死なせたことを「かわいそう」と感じて、ナメクジと共存できないものかと考え、「殺すのではなく、花によせつけない」方法として 『ナメクジに立ち入り禁止を知らせる研究』を思い立った。

 ぼくの研究をホームページにのせた事からたくさんメールをもらったが、そのメールの中に「ナメクジを大切に思っているようだが、花を大切に思っている人にとってはただの害虫ではないか。」というきびしい意見ももらった。それで、どうしたらナメクジにも、花や野菜にもいい方法がないかとぼくなりにずっと考えていた。(中略)ぼくは小4の時の研究中に調べたことの中から、ナメクジがにおいにとても敏感でにおいの学習をするという大学の先生の研究を思い出した。そしてその記事がのったアロマリサーチという本をインターネットで買って読んでみた。読んだら、キニジンというナメクジの嫌いな物を好物のにんじんといっしょに与えるとにんじんまできらいになるというものだった。(中略)ぼくの実験でも、マジックなど苦手な物がナメクジの体についた場合は、ナメクジ自身が液体を出してはがしてしまったので、(体はやせたが)ナメクジがいやがってさけるとすれば体に触れるものよりにおいではないかと気付いた。においで、ナメクジに「ここに入らないで!」という信号を送ればいいのではないか。「立ち入り禁止!」という信号をナメクジに送るにおいってなんだろう?こう思ったことが今回の研究の動機である。
(『ナメクジに立ち入り禁止を知らせる研究』「今回の研究の動機」)

 ぼくは小3の時からナメクジを通して色々考えてきて、人間が身勝手に自然を変えてしまっていることがあまりにも多すぎるのではないかと気付いた。自然のままの状態なら、ある場所に1つの花や野菜が固まってあることは少ないし、そういう形に人間が自然をかえてしまった事がかえってその花や野菜の天敵の虫などを増やすことになってしまったのではないかとぼくは思った。去年の自由研究をした時にアドバイスをして下さった大学の先生が、「人間は環境を変える事によってのみ進化してきた。」と教えて下さったが、地球の未来を考えると人間の都合で環境を変えることはもうやめた方が良いのではないだろうか。これから一番大切なのは地球上の他の生物との共存共栄だと言うことを僕はナメクジの研究から学んだ。
(『ナメクジに立ち入り禁止を知らせる研究』「今後の課題と感想」)

 そして、予備実験では「実験の後、ナメクジに協力してくれたお礼のビールをあげてからナメクジを元々いた鉢の裏にかえした。」と、本実験でも「予備実験から、忌避剤の実験をするとナメクジが疲れる事がわかっていたので、用意したナメクジ40匹を10匹ずつにわけて、一回実験したものは休ませるという形で行った。」「実験に協力してくれた40匹のナメクジは、実験終了後に、鉢の裏や、畑に返した。ナメクジ君、協力ありがとう!」と、ナメクジたちに心からの謝辞を献じている。

 かつて小6だった長田頼河さんは、3・11の翌月(2011年4月)、中央大学法学部に進学。同大学で「和みの輪」(東日本大震災で被災した人々のために行動するボランティア)の副代表になった彼は、翌2012年春、浜松医科大学を再受験して、無類のやさしさにみちあふれた、ひとりの医学生になった。

 「和みの輪」メンバーは中央大学に11人(3年:1人、2年:10人)、浜松医科大学に1人(1年:1人)が所属しています。また団体には執行部・企画部・情報発信部が存在しています。私は2011年3月から中央大学法学部に通っていました。しかし、この和みの輪(※東日本大震災支援の学生ボランティア)での活動を通して、災害が起きた時に被災地の現場の第一線で活躍できるスキルを身につけたいという気持ちが次第に強くなり、思案を巡らせた結果、医師になるための道へ進むことを決意しました。無事受験は終了し、2012年4月からは浜松医科大学医学部医学科1年生として新たなスタートを切ることになりました。
(「和みの輪」HP)

 ことし(2021年)は、3・11(2011年3月/東日本大震災/死者・行方不明者1万8426人・避難者約47万人)から10年、9・11(2001年9月/ニューヨーク同時多発テロ/死者2996人)から20年、1・17(1995年1月/阪神・淡路大震災/死者6434人)から25+1年という、節目の年にあたる。

 これまでも、そして、これからも、たくさんの「悲(かな)し」と、たくさんの「愛(かな)し」から、たくさんの「癒(いや)し」が生まれている。

【プロフィール】
 原山 建郎(はらやま たつろう)
 出版ジャーナリスト・武蔵野大学仏教文化研究所研究員・日本東方医学会学術委員

 1946年長野県生まれ。1968年早稲田大学第一商学部卒業後、㈱主婦の友社入社。『主婦の友』、『アイ』、『わたしの健康』等の雑誌記者としてキャリアを積み、1984~1990年まで『わたしの健康』(現在は『健康』)編集長。1996~1999年まで取締役(編集・制作担当)。2003年よりフリー・ジャーナリストとして、本格的な執筆・講演および出版プロデュース活動に入る。

 2016年3月まで、武蔵野大学文学部非常勤講師、文教大学情報学部非常勤講師。専門分野はコミュニケーション論、和語でとらえる仏教的身体論など。

 おもな著書に『からだのメッセージを聴く』(集英社文庫・2001年)、『「米百俵」の精神(こころ)』(主婦の友社・2001年)、『身心やわらか健康法』(光文社カッパブックス・2002年)、『最新・最強のサプリメント大事典』(昭文社・2004年)などがある。

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