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連載「つたえること・つたわるもの」(108)

小6の夏休み自由研究⇒3・11⇒ひとりの医学生が誕生。

連載 2021-03-09

出版ジャーナリスト 原山建郎

 3・11(東日本大震災+福島第一原発事故)から、10年の歳月が流れた。「復興五輪」を旗印に掲げたはずのTOKYO2020は、いまだコロナ禍の収束が見通せない中で「無観客試合も視野。海外観客の受入れ見送り」の構えを示し、昨年12月21日の記者会見における「人類が新型コロナウイルスに打ち勝った証として」という菅首相の発言から、何としても東京五輪の強行開催をめざす姿勢が見てとれる。

 先週からNHKや民放テレビ各局がさまざまな角度から「3・11の検証」を行っている。そのなかで、家族を津波で失った被災者の「悲しみは、愛だ」という言葉が、こころの奥底にズンと響いた。

 大切な人の死を「悲しむ」こころは、その面影をいまも忘れずにいる「愛」のこころである。漢字の「悲(ヒ)」と「愛(アイ)」は、和語(やまとことば)ではどちらも「かなし」と訓読する。「かなし」の意味を古語辞典の『字訓』(白川静著、平凡社、2007年)で調べてみた。

 ★かなし〔愛・哀・悲〕 どうしようもないような切ない感情をいう。いとおしく思う気持が極度に達した状態から、悲しむ気持となる。/愛は後ろに心ひかれて顧みる人の形。思いが心の中にみちて、どうしようもない感情をいい、「かなし」の語義と最も近い。/哀は死者を哀しむ意。死者の襟もとに、祝詞を収める器の形である (さい)をそえる。/悲は非声。心のうちにもどかしく、思うにまかせぬことを嘆く意があり、これも「かなし」の語義に近い。
(『字訓』236~237ページ)

 どうしようもないような「悲(かな)し」という切ない感情と、いとおしく思う「愛(かな)し」という気持ちがひとつにかさなるとき、そこに究極の「癒(いや)し」をめざす思いと行動が生まれる。

 次に紹介するのは、無類のやさしさを生きる、長田頼河(おさだらいが)さんの物語である。

 3・11の翌年(2012年)、龍谷大学文学部の夏季集中授業(出版学特殊講義)前半(8月上旬2日間)で、学生たちに毎回発表させる1分間スピーチ「今週の感動」ファイルに、【ツイッターで「小学校6年生の、ナメクジに立ち入り禁止を知らせる研究が、第48回静岡県学生科学賞・県科学教育振興委員会賞に選ばれました】というツイート紹介があった。面白そうな研究発表だと最初は興味本位で検索したところ、これが何とすごい「宝の山」であった。早速、後半(9月上旬3日間)の授業資料に追加した。

 ひとつ目の「宝の山」は、この「小6の自由研究」の組み立て方(composition)に驚いたことにある。これまで玉川大学工学部の「文章表現法」で講じた「レポート(論文)の書き方」のうち、古いタイプであるA型(序論・本論・結論)の構成ではなく、現在の主流である新しいタイプのB型(概要・序論・本論・論議)のポイントをおさえている。

 長田頼河さん(2004年当時、静岡市立田町小学校6年生)の『2004年夏休み自由研究 ナメクジに立ち入り禁止を知らせる研究』は、次のように大小の項目が立てられている。
1.これまでの研究経過(小3の研究の結果)/(小4の研究の結果)/〈ビールで育てながら実験して得た結果〉、2.今回の研究の動機、3.今回の研究テーマ、4.研究にあたって調べたこと、5.研究内容、予備実験(実験の目的)/(実験の方法)/ナメ逃げ・乾燥唐辛子そのまま・切った唐辛子・椿油・木酢液・ナメ逃げ2回目/(予備実験の結果からわかったこと)/(予備実験の結果)、本実験(実験の目的)/(実験の道具と材料)/(忌避剤として)/(実験の方法)/コリアンダー・ラベンダーオイル・椿油・コーヒーの粉・唐辛子(きった物)・木酢液・ナメ逃げ・ビール/(本実験の結果)、6.研究の結果と考察(結果)本実験より/(各実験対象の忌避効果)/(考察)、7.今後の課題と感想、8.最後に……

 この「小6の自由研究」をB型の構成にあてはめてみると、アカデミーの学術論文や大学の卒業論文では必須の「概要」はないものの、「1.これまでの研究経過」から「4.研究にあたって調べたこと」までがていねいな「序論」、「5.研究内容、予備実験・本実験」と「6.研究の結果と考察」がきちんとした「本論」、さらに「7.今後の課題と感想」と「8.最後に……」が立派な「論議」になっている。すごい、小6。

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