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連載「つたえること・つたわるもの」(105)

親と子の心をつなぐ〈ことばの卵〉――オノマトペのちから その1

連載 2021-01-26

出版ジャーナリスト 原山建郎

 今週末(1月29日)に予定していた「子育て講座」(東京都・下里しおん保育園)が、二回目の緊急事態宣言を受けて急遽中止(無期延期)となった。タイトルは『親と子の心をつなぐ〈ことばの卵〉――オノマトペのちから』だが、それは親(父母)と子(幼児)だけでなく、かつて「子ども」だった私たちにとっても重要なテーマなので、かつては子どもだった大人にもそのアウトラインを紹介してみたい。

 オノマトペとは、古代ギリシア語のオノマトポイーア(言葉をつくる)を語源にもつフランス語で、日本語では擬声(音)語・擬態語と訳される。おもに自然界にある音や声などを描写した擬声(音)語(ザアザア、ジャブジャブなど)や、あるいはその状態や動作などを音によって表現した擬態語(ぱらぱら、きらきらなど)のことで、それは幼児たちが初めて耳に届いた音(声)や眼で映る動きなどを、身近な大人たちが表現するオノマトペを繰り返し聞きながら、新生児のクーイング(「あうー」、「おぉー」など一音節の母音発声)期から、多音節の「ばぶばぶ」「あうあう」などの喃語(なんご)期をへて、母子の会話が始まる幼児語をかたちづくる〈ことばの卵〉たちである。

 このころ(新生児・幼児期)の子どもは、大人にはわからないことばを話すことが多いが、それはかつての私たち大人も話していたはずのいわば宇宙語である。長編アニメ映画『となりのトトロ』では、草壁一家のサツキ・メイ姉妹が「子どものときにしか会えない(※大人になるとその姿が見えなくなる)」森の主・大トトロ、中トトロ、小トトロたちとの交流が描かれているが、親と子の心をつなぐ〈ことばの卵〉――オノマトペを理解することができれば、かつて子どもだった大人たちが「トトロ(不思議な生きもの)」と出会うための「親と子の心をつなぐ」共通語としての役割を果たすものであろう。

 十年ほど前、武蔵野大学の授業(キャリア開発セミナー)で、出席カードの裏に「イメージのボキャブラリーを豊かにする」ために、学生たちがよく使う擬声語・擬態語を書かせていた。ある日、「水の音」「風の音」を書き出すように指示したところ、次のような「音」たちが集まった。動きや状態などの擬態語は「ひらがな」で、音や声を示す擬声語は「カタカナ」で書かれることが多かった。

 「水の音」(擬声語・擬態語)
 ★ブクブク、ジョボジョボ、ドボドボ、ゴボゴボ、←排水口に吸い込まれる・あふれる音。
 ☆さらさら、チョロチョロ、ドォー、ドゥドゥ、ドドドッザーッ、ザァーッ、ザアザア、ジャージャー、ゴウゴウ←水の流れる音・動きの表現。
 □ぽたぽた、ボタボタ、ポッチャン、ぽつぽつ←水が滴り落ちる音、滴り落ちる動きの表現。
 ◇チャプチャプ、パシャパシャ、パシャ、バシャッ、チャップン、←水(水滴)が跳ねる音。
 ○ポツポツ、しとしと、ピチャピチャ、ぱらぱら←雨が降る音・動きの表現。
 ◎ひたひた、タプタプ、ジャブジャブ←溜まった水の音・動きの表現。

 「風の音」(擬声語・擬態語)
 ★そよそよ、さわさわ、ザワワ、ザワザワ、カサコソ←草葉を揺らす音や葉擦れの音・風の動きの表現。
 ☆ゴーッ、ヒューヒュー、ビュービュー、ピューピュー、ゴウゴウ、ゴォーゴォー、グォーグォー←はげしい風(嵐)の音。
 □すーすー、サァーッ、ザァーッ、ヒュルル、ヒュルリ、ヒュルヒュル、ピュルルーン、ヒュッ、プゥー←吹き抜ける風の音(一陣の風)・風が吹き抜ける動きの表現。

 これらのオノマトペ表現を用いて、自分が感じた「水が流れる・風が吹く」イメージをできるだけ正確に相手に伝える、それが「イメージのボキャブラリーを豊かにする」エクササイズの狙いである。
 ①ことばでイメージを伝える技術は、細部から全体を連想させるホログラフィー(3次元画像)だ。
 ②多彩なオノマトペ(形容詞、動詞、副詞)を用いて、ものごとのディテールを的確に表現する。
 ③ことば(音調・色彩・質感)は記憶をたどる、回想(想像力)のフック(引っかける鉤)である。
 ④ことばのもつ正確な意味を辞書で調べて理解し、同時に同義(意味がほぼ同じ)語・類義(意味が同じか近い)語・対義(反対の意味をもつ)語などのボキャブラリーをたくさん仕入れる。

 翌週の授業では、電車の中吊りポスターで見つけた水にまつわる「ことば(動詞)」を紹介して、これらの「ことば」から生まれるオノマトペ(飲む:ごくごく、撒く:ザバーッなど)を書かせた。

 のむ、まく、くむ、こぐ、ひたす、あらう、こぼす、わかす、たらす、もぐる、およぐ、ぬらす、うかぶ、そそぐ、かける、ためる、ながす、うつ
(「東京都水道局のエッセイ募集」1997年)

 さて、三歳の誕生日を迎えるころから、子どもの語彙(ボキャブラリー)は格段に増え始める。子どもの語彙とは、記号として口に出せることば。子どもの脳の中にはまだ記号化していない〈ことばの卵〉が、その数百倍も何千倍も詰まっている。三歳になるまでに培った〈ことばの卵〉を記号化するこの時期、新たな外国語の導入、たとえば幼児の英語学習などには慎重でありたい。孵化する前の〈ことばの卵〉を壊してしまいかねないからだ。四歳から七歳までの幼児期は、ことば、所作、意識の連繋を学ぶとき、つまり「からだ(動き)」と「思い(意識)」の相関連動・相補性という、「ことばの身体性」を学ぶ時期なのだ。

 感性アナリストの黒川伊保子さんは、『日本語はなぜ美しいのか』(集英社新書、2007年)のなかで、日本語が【最初のひとしずくの源流ともいえる音韻の時代から、おそらく一貫して、同じ風土で培われてきたものだ】として、【漢字を受け入れたときも、音韻を日本人の感性に添わせている】と述べている。漢字が伝来したとされる5~6世紀までは、話しことばによる会話コミュニケーションだった日本語(やまとことば)を形づくったオノマトペの音韻(音の響き)について、黒川さん自身が「美しいと感じることばの第一法則」として、「ことばの発音体感と、その実体のイメージが合致していると気持ちいい」として、次のようなオノマトペ(擬音語、擬態語)を「情景と語感が一致している」表現例を紹介している。

 カラカラ、サラサラ、タラタラ。
 カラカラは、硬く乾いた感じ。KaRaKaRaのたった二文字をSに変えただけなのに、サラサラは、木綿の表面を撫でたときのような、空気を孕んですべる感じになる。タラタラになると、濡れて、粘性を感じさせる。
 クルクル、スルスル、ツルツル。
 クルクルは、硬く丸いものが回転する感じ。スルスルは、紐が手のひらをすべっていく感じ。ツルツルは、まるでうどんをすする音のようで、汁を含んだ粘性のある物体を感じさせる。
 コロコロ、ソロソロ、トロトロ。
 コロコロは、硬く丸いものが転がる感じ。ソロソロは、廊下をすり足で行く感じ。トロトロは、粘性を感じさせる。

(『日本語はなぜ美しいのか』第七章「ことばの美しさとは何か」130ページ)

 黒川さんが解説した「カラカラ、サラサラ、タラタラ」と「コロコロ、スルスル、ツルツル」は、五十音図にある標準的な清音だが、これに濁点を振ると「(重い引き戸を)ガラガラ、(砂ぼこりで畳が)ザラザラ、(血が)ダラダラ(垂れる)」「(重たい石が)ゴロゴロ、ズルズル(引きずる)、ヅルヅル(すする)」となる。標準的な清音のオノマトペより、少し重たい感じや抵抗感が出てくる。また、清音・濁音・半濁音が使える「ハ行」では、さらに豊かなオノマトペ表現が可能になる。
 「はらはら・ばらばら・ぱらぱら、はりはり、ばりばり・ぱりぱり/ひらひら・びらびら・ぴらぴら、ひりひり・びりびり・ぴりぴり/ふらふら・ぶらぶら・ぷらぷら、ふるふる・ぶるぶる・ぷるぷる/へらへら・べらべら・ぺらぺら、へろへろ・べるべろ・ぺろぺろ/ほろほろ・ぼろぼろ・ぽろぽろ」

 私たち大人が、たとえば桜の花が「はらはら」散る、隊列が「ばらばら」になる、ごま塩を「ぱらぱら」振りかけるなど、それぞれ清音・濁音・半濁音の違いが理解できるのは、新生児・幼児のころに耳で聴き眼に映る世界の音や情景を表現する〈ことばの卵〉――オノマトペのちからがあったからである。

【プロフィール】
 原山 建郎(はらやま たつろう)
 出版ジャーナリスト・武蔵野大学仏教文化研究所研究員・日本東方医学会学術委員

 1946年長野県生まれ。1968年早稲田大学第一商学部卒業後、㈱主婦の友社入社。『主婦の友』、『アイ』、『わたしの健康』等の雑誌記者としてキャリアを積み、1984~1990年まで『わたしの健康』(現在は『健康』)編集長。1996~1999年まで取締役(編集・制作担当)。2003年よりフリー・ジャーナリストとして、本格的な執筆・講演および出版プロデュース活動に入る。

 2016年3月まで、武蔵野大学文学部非常勤講師、文教大学情報学部非常勤講師。専門分野はコミュニケーション論、和語でとらえる仏教的身体論など。

 おもな著書に『からだのメッセージを聴く』(集英社文庫・2001年)、『「米百俵」の精神(こころ)』(主婦の友社・2001年)、『身心やわらか健康法』(光文社カッパブックス・2002年)、『最新・最強のサプリメント大事典』(昭文社・2004年)などがある。

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