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連載「つたえること・つたわるもの」104

五輪のモットー〈より速く、より高く、より強く〉を改めて見直す!

連載 2021-01-12

 「より高く」といえば、2012年に武蔵(むさし)国にちなんで建てられた高さ634メートルの東京スカイツリーが、1964年開催の東京オリンピックをテレビ中継するための電波塔として、昭和33(1958)年建設された高さ333メートルの東京タワーを抜いた。そもそもこの東京タワーそのものが、戦後復興のあかしとしてパリのエッフェル塔(高さ324メートル)を超える意図をもって建てられたものだという。近年は一部屋の値段が数億円もする高層マンションブームだが、地震や台風などで停電しようものなら、電気で動くインフラがオフになり、最上階から歩いて何百段も非常階段を上り下りしなくてはならない。

 たとえば、旧約聖書にある「バベルの塔の物語」は、天に達する高い塔を立て、天に住む神と等しくなろう(天の高さに住もう)とする行いを諫める神話だが、仏教で説く「小欲知足」をもじっていえば、それは「中欲(小欲と大欲の間、ほどほどの欲で)知足(足るを知る)」を諭す物語なのかもしれない。

 「より強く」といえば、菅首相が重点項目として打ち出した「グリーン社会(2025年までに温室効果ガスを実質ゼロ)、デジタル社会(ビッグデータの資源化と最大活用)」の目標は、一見すると地球にやさしい政策のようだが、資金力の豊かな大企業、とりわけ国民のための利益(国益)よりも企業の利益や株主の利益を最優先する、グローバル企業、多国籍企業による寡占状態を創出する可能性が高いという懸念から、ともすると「より弱い」大多数の国民を置き去りにしかねない「グリーン・デジタル社会」の暴走を、私は危惧している。

 菅首相に心から訴える――今夏に予定されている東京五輪の中止を一日でも早く決断して、その追加予算を医療崩壊の危機に瀕している医療機関・医療関係者への支援、PCR検査の拡充、中小企業や個人事業主への援助資金などに投入してほしい。かつて、東京五輪招致のときに巻き起こった東日本大震災「復興支援」の声を、今後はコロナ禍「収束支援」のための広範な議論として活かしていただきたい。

 今回の世界的なコロナ禍の蔓延を奇貨として、五輪のモットーである〈より速く、より高く、より強く〉を改めて見直し、〈ゆっくり、なかよく、やさしい〉日本、そして世界をめざしたいものである。

【プロフィール】
 原山 建郎(はらやま たつろう)
 出版ジャーナリスト・武蔵野大学仏教文化研究所研究員・日本東方医学会学術委員

 1946年長野県生まれ。1968年早稲田大学第一商学部卒業後、㈱主婦の友社入社。『主婦の友』、『アイ』、『わたしの健康』等の雑誌記者としてキャリアを積み、1984~1990年まで『わたしの健康』(現在は『健康』)編集長。1996~1999年まで取締役(編集・制作担当)。2003年よりフリー・ジャーナリストとして、本格的な執筆・講演および出版プロデュース活動に入る。

 2016年3月まで、武蔵野大学文学部非常勤講師、文教大学情報学部非常勤講師。専門分野はコミュニケーション論、和語でとらえる仏教的身体論など。

 おもな著書に『からだのメッセージを聴く』(集英社文庫・2001年)、『「米百俵」の精神(こころ)』(主婦の友社・2001年)、『身心やわらか健康法』(光文社カッパブックス・2002年)、『最新・最強のサプリメント大事典』(昭文社・2004年)などがある。

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