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連載「つたえること・つたわるもの」(92)

ブラック・ライヴズ・マター、免疫バリア。2つの〈共生〉。

連載 2020-06-23

出版ジャーナリスト 原山建郎

 先週末、他県をまたぐ移動制限が解除されたので、妻と二人で久しぶりに自宅から神奈川県の江ノ島まで片道80キロメートル、往復約4時間のドライブを楽しんだ。マスク着用はもちろん、アルコール除菌タオル持参、三密を避けて周囲との距離を気にしながらの小旅行。ランチのレストランや土産物店では出と入りで2回、手指のアルコール消毒を行い、車に戻って改めてアルコール除菌をすませるまで、手指で顔をさわらぬ「超清潔化」を心がけた。約4カ月ぶりのドライブだったが、長時間運転による疲れよりも、新型コロナウイルスの飛沫感染、接触感染への警戒感で張りつめた「コロナ疲れ」のほうが数十倍も大きかった。

 この日は1日に20回以上、手指を丹念にアルコール消毒していたことになるが、新型コロナウイルス感染の第二波、第三波の襲来に備えて、今後も〈殺菌・滅菌・除菌〉の超清潔化をつづけていたら、「過ぎたるは猶及ばざるが如し」の譬えのように、私たちの〈からだ(生体)〉に害が及ぶことはないのだろうか?

 ちょっと気になったので、書架の片隅から『パラサイトの教え』(新潮文庫、2004年)を引っ張り出した。著者の藤田紘一郎さんは「カイチュウ(回虫)博士」の異名をもつ免疫学者だが、この一冊の中に「新型コロナ禍」に翻弄される現代に、2つの〈共生〉を考える貴重な手がかりが見つかった。

 1つ目の〈共生〉は、異なるものに対する、いわれのない差別(共生の排除・拒否)である。これは、先月(2020年5月)、米国(ミネソタ州ミネアポリス)で発生した黒人男性を白人警官が過剰な暴力によって死に至らしめた事件をきっかけに、世界中に広がった「ブラック・ライヴズ・マター(黒人の命は大切だ)」という抗議運動を考えるための、古くて新しい視点である。

 とくに、「新型コロナ禍」の影響で始まったテレワーク(在宅リモートワーク)やリモート帰省(故郷とのビデオ通話)など、電子メディアを介したコミュニケーションが主流となり、そのまま「ニューノーマル(新しい行動基準)」になろうとしているが、藤田さんは16年前の著書の中で次のように述べている。

 電子メディアの時代になって、時間と空間が極端に圧縮されてしまった。隣の家よりニューヨークのほうが近くなったのだ。人間が作り出した人工的な時間の中で過ごすようになった僕たちが、どうしたらゆったりとした「生身の時間」が持てるか、本書から学んでいただけたら幸いである。
(『パラサイトの教え』6ページ)

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