連載「つたえること・つたわるもの」(92)
ブラック・ライヴズ・マター、免疫バリア。2つの〈共生〉。
連載 2020-06-23
同書(「超清潔症候群」の章)では、「おやじ狩り」の少年たちが寝ていたホームレスの人たちを急襲し、そのうちの一人(ヤマちゃん)が死亡した事件をとり上げている。その根底には行き過ぎた「超清潔化」志向の高まりから、「清潔でキレイ」な自分が「臭くてキタナイ」社会的弱者との〈共生〉を排除・拒否する社会風土をつくり出しているのではないか――藤田さんは「超清潔化」の風潮に警鐘を鳴らしている。
日本人はもともと「きれい好き」な民族であった。しかし、最近の日本人の清潔志向は明らかに「行き過ぎ」になっている。(中略)そして、若者たちは「共生菌の排除」から自分の出す汗やにおいまでを排除するようになった。このような傾向は、もはや人間が「生物」として生きる基盤さえ奪い、人間の「精神的な衰弱」をも導いてきたものと思われる。ヤマちゃん事件を読んで、僕は日本の若者の「感性の衰弱」をはっきり感じ取ったのだった。
(『パラサイトの教え』17ページ)
日本は今、「抗菌社会」から「消臭社会」に突入した。若者はせっせと自分の体から「においを排除」し始めた。しかし、こんなふうににおいを排除することが果たしていいことなのだろうか。年をとってくると、代謝が充分でなくなるから、自然ににおうようになる。まして、ホームレスの人たちがそうなってくるのは当然のことだ。もちろん病人も臭くなってくる。しかし、臭いからといって、お年寄りや病人やホームレスの人たちを排除していいのだろうか。生き物にとって、「におい」は大切な自己主張のサインだ。そのにおいを消そうとするのは、自分を見せたくないということで、消臭でみんな同一化しているのだ。(中略)
においをなくして個の主張を亡くし、仲間外れにならないようにする。におうことが「いじめ」の理由になるなど、穏やかなファシズムになっているのではないかと僕は思う。
(『パラサイトの教え』28~29ページ)
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