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連載「つたえること・つたわるもの」(90)

令和のニューノーマル=必要なものを・必要なときに・必要なだけ。

連載 2020-05-26

 ところで、仏教的な〈小欲知足〉を考える上で、よくいわれる「衣食足りて礼節を知る」とは、中国の春秋戦国時代、斉の宰相・管仲の「倉廩実則知礼節、衣食足則知栄辱(倉廩実つれば則ち礼節を知り、衣食足れば則ち栄辱を知る)」からとった言葉だが、日本人一般の経済観念にしても「稼ぐに追いつく貧乏なし」とか「入るを量りて、出ずるを制す」など、「まっとうな」生き方をよしとする時代が長く続いていた。私が考える「貧しさに恵まれた時代」とは、もとより貧しさの被虐的な賞賛が目的ではなく、それは「貧しさ」のもつシンプルな力に助けられ、引き出された「たいせつなもの」であり、それはまさに「衣食足りて礼節を知る」に連なるはずのものである。たとえば、江戸時代までの日本には「稼ぐ」と「儲ける」という、二種類の利益があった。一般的な解釈では、稼ぐとは〈生計を立てるために働く〉、儲けるとは〈金銭上の利益を得る、思いがけない得をする〉となるが、古い辞書を引いてみると、稼ぐ=〈家業に精を出す、はげみはたらく〉、儲ける=ひかえを置く、利益を得る〉と説明されている。

 日本人の「稼ぐ」と「儲ける」をとらえる手がかりに、二人の農業経済学者の考え方を紹介しよう。

 まず、「農業で稼ぐというのは、まず自分で食べる物を、できるだけ自分で作ることなのだ」と考える守田志郎さんが書いた『農法――豊かな農業への接近――』(農山漁村文化協会、1972年)の一文である。

 「儲ける」の意味に「ひかえをとっておく」というのがあるが、これはお金儲けとは一応別の面の意味の説明だとしても、儲けるということばのもともとの語義は、本来必要な分とは別に脇にとっておく分(※たとえば収穫した稲籾の一部を、翌年に苗代に蒔く種籾として保存する)のことであることを語っている。「ひかえの矢」という意味もあるらしい。
(同書30ページ)

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