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連載「つたえること・つたわるもの」(89)

ウィズ・コロナで生きる、腸内細菌・ミトコンドリアとの共生。

連載 2020-05-12

 生命進化の「長いマラソン」といえば、地球が誕生したのが約46億年前、生命の誕生は約36億年前だといわれている。原初の生物は海の中を漂う単細胞生物(細菌などの微生物)だったが、やがて約9~10億年前に多細胞生物が登場し、そして人類の祖先である霊長類が出現したのが、約6500万年前のことである。

 ヒト(人間)の〈からだ〉を構成する細胞(体細胞)の数は、約37兆個(※昔は約60兆個とされていた)だが、元はといえば単細胞(微生物)から多細胞(無脊椎動物→脊椎動物)へと進化してきた動物であり、ヒトの腸内には約500種類、約100兆個を超える「腸内細菌」が棲みついている。腸管(口から肛門までの消化管)の表面積はテニスコート1面分、皮膚など体表面積の100倍以上もあり、免疫に関係するリンパ組織、免疫担当細胞で構成された腸管免疫系は、自然免疫系の活性化に欠かせない働きを担っている。私たちの腸内フローラ(細菌叢)がビフィズス菌や乳酸菌など〈善玉菌〉が優勢のときは、腸管免疫系がハイレベルの健康体だが、ウェルシュ菌や病原性大腸菌(有毒株)など〈悪玉菌〉が多くなると、頑固な便秘や発がん物質が心配になる。また、バクテロイデスや無毒株の大腸菌は〈日和見菌〉と呼ばれ、〈からだ〉が健康なときはおとなしくしているが、ひとたび〈からだ〉が弱ってくると腸内で悪い働きをする細菌もいる。

 細菌とウイルスには、同じ微生物でもかなり異なる性質がある。細菌(バクテリア)は単細胞生物であり、自己複製(栄養・水分・温度環境があれば、自分で増殖する)能力をもった微生物である。多くの細菌は宿主の細胞外で増殖する。細菌感染症の治療には抗菌薬(抗生剤、抗生物質)を用いることが多い。

 一方、ウイルスはタンパク質の外殻をもち、内部に遺伝子をもっただけの単純な微生物で、宿主である生物(細胞)の中でどんどん増殖し、他の細胞にもとり付いて、感染した細胞を破壊する。最終的には宿主の細胞(新型コロナウイルス感染では、主に重篤な肺炎)が死ぬことになり、宿主を失ったウイルスもまた死滅する。ウイルス感染症に効果のある抗ウイルス薬は、残念ながらまだ少ない。今回の新型コロナウイルス感染症対策で治験が始まったアビガン(インフルエンザの治療薬)も、レムデシベル(エボラ出血熱の治療薬)も世界各地に十分な症例数があるわけではないので、いまは暗闇の中で手探りの状態なのである。

 このように、「人のいのちを奪うコロナが憎い」「この世からコロナを撲滅せよ」「武漢ウイルスさえなかったら」などと、世界中から目の敵にされ、忌み嫌われる(新型コロナ)ウイルスであるが、3月27日にアップされた書評ブログ『松岡正剛の千夜千冊』に、科学ジャーナリストのカール・ジンマーの『ウイルス・プラネット』(今西康子訳、飛鳥新社、2011年)があった。ここでは生命進化の「長いマラソン」を細胞内共生しながら、ヒトの進化にも関わったウイルスの立ち位置(共生編集的な生命系)をとりあげている。

 少し難しい話題になるが、細胞の外からやってきたのはウイルスだけではない。ミトコンドリアもまた、〈からだ〉の中で細胞内共生している。ミトコンドリアは生命進化の過程の中で、ヒトの細胞の中に入り込んだ小器官=微生物だが、1個の体細胞の中に数百個から数千個存在する。血液で運ばれる酸素とブドウ糖を利用して、ヒトの活動に必要な生命エネルギーを休むことなく作り出している。近年(2015~2016年)の研究論文には、ミトコンドリアが自然免疫応答で重要な役割を担っていることが報告されている。

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