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連載「つたえること・つたわるもの」(86)

令和の3・11〈パンデミック宣言〉、SNS(流言飛語)の拡散。

連載 2020-03-24

出版ジャーナリスト 原山建郎

 先週(3月20日)、オリンピックの聖火がギリシャから日本(宮城県・自衛隊松島基地)に到着した。航空自衛隊の曲技飛行隊(ブルーインパルス)がカラースモークで歓迎の五輪マークを大空に描こうとしたが、その直後、折からの強風でかき消されてしまった。さらに、強風のために聖火皿に火が点かないトラブルも発生するなど、復興五輪の象徴となるべき『復興の火』式典は不安だらけのスタートとなった。

 そもそも、オリンピック発祥の地で3月12日に行われた聖火の採火式についても、地元のオリンピア市長がギリシャ国内での新型コロナウイルス感染拡大を受けて、IOC(国際オリンピック委員会)に(採火式の)5月延期を求めたが即座に却下されるなど、見切り発車同然の門出となっていたのである。

 大会組織委員会の森喜朗会長、五輪担当の橋本聖子大臣もつい数日前まで、「新型コロナウイルス感染拡大の現状を考えると、延期が妥当ではないか」という報道陣の問いかけに、「東京オリンピック・パラリンピックは予定(期日)通り行う。中止、延期は考えていない」と答えていた。また、これまで「予定通り実施の方針に変わりはない」としてきた安倍晋三首相も、3月17日のG7首脳による緊急電話会談後の記者会見で、東京オリンピック・パラリンピックの7月24日開催予定を「人類が新型コロナウイルスに打ち勝つ証として、完全な形で実現することで主要7か国の支持を得た」と述べていた。

 ところが、昨日(23日)になって、それまで「(東京オリンピック・パラリンピック開催の中止や延期は)WHOの判断に委ねる」としてきたIOCのバッハ会長が、延期を含めた検討に入ったが、「きょうの延期に関する決定は現時点で新しい日付まで決められなかった」と述べたことで、風向きが一気に変わった。

 〈政治決断〉という言葉がある。辞書には「賛否が割れて結論の出ない問題、法令に反する、または法令に規定のない問題について責任を持つ政治家が方針を定めること。政治決断。」とあるが、今回の「東京オリンピック・パラリンピック」の2020年開催と、「新型コロナウイルス感染拡大」を阻止するという問題について、ウイルス感染者を載せたダイヤモンド・プリンセス号が2月3日に横浜港沖に停泊したときから、安倍首相がいつどの時点で〈政治決断〉するかを、国民はずっと注視してきた。

 〈後出しじゃんけん〉といわれるかもしれないが、即座に「中国全土からの入国禁止」「感染が疑われる乗客・乗員全員のPCR検査実施」「陰性者(自宅待機)の公共交通機関利用禁止」をすべきだったと思うが、この時点でWHO(世界保健機関)のテドロス事務局長が「まだパンデミック(世界的流行)まではいっていない」という見解を示していたことを差し引いても、「大規模イベントの自粛をお願いしたい。しかし、これは強制ではありません」という「政治決断」はいかにもお粗末と言わざるを得ない。

 3月11日、WHOのテドロス事務局長は、初めて「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミック(世界的な大流行)とみなせる」と表明した。私は9年前(2011年3月11日)に発生した〈東日本大震災+福島第一原発事故〉を平成の「3・11」とするならば、今回の新型コロナウイルス感染拡大のパンデミック宣言がなされた2020年3月11日を令和の「3・11」と呼ぶことにしたい。

 ところで、その2日後(13日)、政府は新型コロナウイルス対策の特措法を成立させておきながら、安倍首相は「まだ、緊急事態宣言を出す時期ではない」と述べるにとどまり、いま早急に求められている〈政治決断〉はしないままだ。政府が求める「自粛(自ら進んで行いや態度を慎むこと)」は、あくまでも要請であって、罰則をともなう強制ではない。大規模イベントを自粛せず、不幸にして感染の拡大をもたらした場合、その責任は政府にはない、主催者の側に責任があると言いたいのであろう。3日前、埼玉スーパーアリーナでのK-1(格闘技)イベントが、政府や埼玉県からの再三の自粛要請を振り切って、6,500人の観客を集めて決行された。テレビには感染症対策担当大臣と埼玉県知事の渋面が映っていたが、その責任は1月から3月までズルズル決断せずにきた安倍首相の優柔不断によるところが大きい。

 K-1のイベント参加者の中には「自己責任ですから」とうそぶく若者もいた。濃厚接触による不顕性感染(症状がなくても感染する)、ライブハウス・集会などのクラスター(感染者の集団)、イタリアやスペインで見られるオーバーシュート(爆発的感染)など、テレビ番組で毎日のように流される新型コロナウイルス情報に接していたはずだが、何も理解しようとしない人には何も聞こえない、何も見えない。

 目の見えない敵(新型コロナウイルス)が相手の自粛は、人びとの心を萎縮させる。「しゅく」と読む漢字(粛・縮)を含む熟語には、自粛・粛清・粛然・静粛、萎縮・畏縮・恐縮・縮小・緊縮など、内側にこもって外敵から身を護る意味をあらわす言葉が多い。人々の不安と恐怖、嘘と真実の見極めが困難な情報が世の中にあふれ、すべての人びとが〈災害対策モード〉に入ってしまった。今回の新型コロナ騒動でも、さまざまなデマ(流言飛語)がおもにSNS(フェイスブック、ライン、ツイッターなど)など参加交流型サイトでたちまち拡散して、マスクやトイレットペーパーが店頭から消えてしまった。

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