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連載コラム「つたえること・つたわるもの」③

小池都知事のカタカナ語、日本語にしてみました。

連載 2016-10-25

出版ジャーナリスト 原山建郎

 豊洲市場の移転延期・盛り土問題、東京五輪の開催費用検証・会場施設見直しなど、都政改革本部の調査チームを立ち上げた小池百合子都知事は、毎週末金曜日の定例記者会見、9月28日の初都議会における所信表明演説などを通じて、豊洲市場の環境汚染懸念、ゼネコンとの官製談合疑惑、JOC(日本オリンピック委員会)の放漫運営体質にチェックを入れている――と、ここまでは誰もが拍手喝采なのだが、小池都知事が多用するカタカナ語は「意味がよく分からない」と困惑する人が多くいて、はなはだ評判が悪いのだ。

 これらのカタカナ語を日本語にしたらどうなるか。☆所信表明演説、★定例記者会見で用いられたカタカナ語を抜き出して、小池都知事が大好きなカタカナ語(英語の綴り:日本語翻訳≒同義語・類語などの意訳)を見てみよう。いずれも拙い日本語私訳なので、万が一、誤訳・迷訳があったらごめんなさい。

 ☆常に目的は、「都民ファースト(first:第一優先)」の都政の構築にあります。

 ☆「ワイズ・スペンディング(wise spending:賢い支出≒賢いお金の使い方)」という言葉がありますが、豊かな税収を背景に、税金の有効活用の観点が損なわれることがあってはなりません。

 ☆日本の成長のエンジン(engine:原動機≒原動力)として世界の中でも輝き続けるサステイナブル(sustainable:存続・持続・成長可能な)、持続可能な首都・東京を創り上げることであります。そのためにも、「セーフシティ(safe city:安全都市)」「ダイバーシティ(diversity:多様性≒多様性受容社会)」「スマートシティ(smart city:環境配慮型都市)」の3つのシティ(city:都市 ※diversityはdi+verse+tyが語源で発音は同じだが、cityではない)を実現し、東京の課題解決と成長創出に取り組んでまいります。

 ☆2020年の大会は単なる1964アゲイン(again:再現≒夢よもう一度)ではなく、成熟都市であり、世界の最先端都市である「TOKYO」を世界にアピールする大会にしなければなりません。

 ☆ハード(hardware:設備・施設)面のレガシー(legacy:遺産≒物理的な遺産)だけでなく、ソフト(software:規則・運用)面のレガシー(legacy:遺産≒技術的・文化的な遺産)を構築いたします。

 ☆たとえば、フィンテック(fintech:情報通信技術を使った新たな金融サービス)分野をはじめとする海外の金融系企業を誘致するため

 ★片仮名ばかり並べて申し訳ないのですが、企業で言うところのコンプライアンス(compliance:法令順守≒法律や倫理に則った企業活動)です。ということで、だから内部統制(従業員や会社の資産の管理統制)であるとかガバナンス(governance:統治≒経営の管理統制)、誰が管理をして、誰が決定をして・・・【※これは「企業(corporate)で言うところ」に続く文脈なので、「内部統制であるとかガバナンス」は、コーポレートガバナンス(経営の管理統制)・内部統制(従業員や会社の資産の管理統制)をいう】

 ★手が下がりつつあって、もうウイズドロウ(withdraw:手を引っ込める)してしまっている。

 ★先ほど私が、ホイッスルブロワー(whistle-blower:警笛を吹く人≒不正行為の内部通報者)の話をさせていただいわけでございまして、匿名、実名を問わず

 カタカナ語が埋め込まれた「前後の文脈」から難解な経営英語を私訳したのだが、もしかすると、これはカタカナ語を多用して記者の質問を「煙に巻く(to create a smokescreen)」政治的手法なのかもしれない。英語はもとより、アラビア語にも堪能な小池都知事は、「頭がよい」を意味する英語、スマート(smart:頭のよさ・小利口)、クレバー(clever:頭が切れる・聡明)、ワイズ(wise:知的な賢さ・博識)でいえば、スマート&クレバーだが、「都民ファースト」を目指す語彙力はまだワイズの域まで到達していない。

 ところで、まど・みちおの詩、『がいらいごじてん』は当意即妙の「ひらがな語」訳で、実に味がある。

 ◆ファッション=はっくしょん/ア ラ モード=あら どうも/ミニ スカート=目に すかっと/ピックルス=びっくり酢/マロン グラッセ=まるう おまっせ/トイレ=はいれ/ボクシング=ぼく しんど

 小池都知事の新造語、ライフ・ワーク・バランス(life-work-balance:生活と人生の調和)を「ひらがな語」にしてみる。◆ライフ・ワーク・バランス=あーした 天気に なあれ

 おあとがよろしいようで……。

【プロフィール】
 原山 建郎(はらやま たつろう) 
 出版ジャーナリスト・武蔵野大学仏教文化研究所研究員・日本東方医学会学術委員

 1946年長野県生まれ。1968年早稲田大学第一商学部卒業後、㈱主婦の友社入社。『主婦の友』、『アイ』、『わたしの健康』等の雑誌記者としてキャリアを積み、1984~1990年まで『わたしの健康』(現在は『健康』)編集長。1996~1999年まで取締役(編集・制作担当)。2003年よりフリー・ジャーナリストとして、本格的な執筆・講演および出版プロデュース活動に入る。

 
 2016年3月まで、武蔵野大学文学部非常勤講師、文教大学情報学部非常勤講師。専門分野はコミュニケーション論、和語でとらえる仏教的身体論など。

 
 おもな著書に『からだのメッセージを聴く』(集英社文庫・2001年)、『「米百俵」の精神(こころ)』(主婦の友社・2001年)、『身心やわらか健康法』(光文社カッパブックス・2002年)、『最新・最強のサプリメント大事典』(昭文社・2004年)などがある。

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