連載「つたえること・つたわるもの」(51)
新卒一括採用見直し、就活ルール廃止、即戦力重視の落とし穴。
連載 2018-10-23
柳井さんの国際競争に負けない「グローバル人材論」に対して、内田さんは日本列島に生きる人たちを食わせる「国民経済」という観点を提起する。少々長い引用になるが、大事なポイントを紹介したい。
たしかに一私企業の経営者として見るなら、この発言は整合的である。
激烈な国際競争を勝ち残るためには、生産性が高く、効率的で、タフで、世界中のどこに行っても「使える」人材が欲しい。国籍は関係ない。社員の全員が外国人でも別に構わない。生産拠点も商品開発もその方が効率がいいなら、海外に移転する。
この理屈は収益だけを考える一企業の経営者としては合理的な発言である。
だが、ここには「国民経済」という観点はほとんどそっくり抜け落ちている。国民経済というのは、日本列島から出られない、日本語しか話せない、日本固有のローカルな文化の中でしか生きている気がしない圧倒的マジョリティを「どうやって食わせるか」というリアルな課題に愚直に答えることである。端的には、この列島に生きる人たちの「完全雇用」をめざすことである。老人も子供も、病人も健常者も、能力の高い人間も低い人間も、全員が「食える」ようなシステムを設計することである。
「世界中どこでも働き、生きていける日本人」という柳井氏の示す「グローバル人材」の条件が意味するのは、「雇用について、『こっち』に面倒をかけない人間になれ」ということである。
雇用について、行政や企業に支援を求めるような人間になるな、ということである。
そんな面倒な人間は「いらない」ということである。
たしかに、企業の利益をもっと上げるためには、仕事の効率化推進、国際競争力アップ、(英語のできる)優秀な人材の確保は重要課題ではあるが、「部分最適」を過度に推進すると、その結果、「全体最適」が一気に壊れる。いまの企業に必要なのは、組織の効率化(コスパ?)の対極にある、遊び・すき間・ゆとりの仕事であり、それを支えてきたのが「新卒一括採用」という、日本独特の雇用形態にあったのではないか。
次回は、大企業から目の敵にされる「新卒一括採用――終身雇用制」について、改めて考えてみたい。
【プロフィール】
原山 建郎(はらやま たつろう)
出版ジャーナリスト・武蔵野大学仏教文化研究所研究員・日本東方医学会学術委員
1946年長野県生まれ。1968年早稲田大学第一商学部卒業後、㈱主婦の友社入社。『主婦の友』、『アイ』、『わたしの健康』等の雑誌記者としてキャリアを積み、1984~1990年まで『わたしの健康』(現在は『健康』)編集長。1996~1999年まで取締役(編集・制作担当)。2003年よりフリー・ジャーナリストとして、本格的な執筆・講演および出版プロデュース活動に入る。
2016年3月まで、武蔵野大学文学部非常勤講師、文教大学情報学部非常勤講師。専門分野はコミュニケーション論、和語でとらえる仏教的身体論など。
おもな著書に『からだのメッセージを聴く』(集英社文庫・2001年)、『「米百俵」の精神(こころ)』(主婦の友社・2001年)、『身心やわらか健康法』(光文社カッパブックス・2002年)、『最新・最強のサプリメント大事典』(昭文社・2004年)などがある。
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