連載「つたえること・つたわるもの」(49)
鈴愛の「半分、青い。」、「聞こえる」と「聞こえない」のあいだ。
連載 2018-09-25
この人の語る言葉を絶対に聞き漏らしてはならない。
そう強く意識させられた結果、なんというか、耳に届く言葉だけではなく、表情の変化や、ちょっとした仕草、声の抑揚を含めて、患者さんが発信する何かを余すことなく受け止めようと、目はもちろんのこと、鼻も皮膚感覚も総動員して、全身を使って「聞く」ことをしていたような感覚があった。(中略)全身を使って発せられる「声」には、その人だけの温もりや湿度や感情の揺れが含まれていて、「聞きづらい」耳にも届いてくる。その「声」は聴力検査では測れない「聞こえる」力を持っている。「聞こえる」人でも、すべてを聞くことができるとは限らない。耳がキャッチするものが「すべて」ではないからだ。「声」とは耳だけで聞こえるものではないのだ。
生まれつきの高音域難聴に加えて、30歳代に突然発症した聴覚障害をもつ、青山さんの「聞きづらい」耳に届いてくる声は、ひと言も「聞きもらすまい」と集中する耳だけでなく、声を発する口元やちょっとした仕草の変化を「見る」、あるいは実際に見えていない部分を「感じる」ことで浮かび上がってくる。
青山さんにとっての『半分、青い。』とは、生まれつき「聞きづらい」耳だからこそ、目も鼻も皮膚感覚も総動員して聞きとった音が「意味」をもつ声になり、ことばのメッセージ性はさらに深まる。
青山さんは、このように考えた。
「よく聞こえる人は、耳で聞きすぎるのではないだろうか」と。
【プロフィール】
原山 建郎(はらやま たつろう)
出版ジャーナリスト・武蔵野大学仏教文化研究所研究員・日本東方医学会学術委員
1946年長野県生まれ。1968年早稲田大学第一商学部卒業後、㈱主婦の友社入社。『主婦の友』、『アイ』、『わたしの健康』等の雑誌記者としてキャリアを積み、1984~1990年まで『わたしの健康』(現在は『健康』)編集長。1996~1999年まで取締役(編集・制作担当)。2003年よりフリー・ジャーナリストとして、本格的な執筆・講演および出版プロデュース活動に入る。
2016年3月まで、武蔵野大学文学部非常勤講師、文教大学情報学部非常勤講師。専門分野はコミュニケーション論、和語でとらえる仏教的身体論など。
おもな著書に『からだのメッセージを聴く』(集英社文庫・2001年)、『「米百俵」の精神(こころ)』(主婦の友社・2001年)、『身心やわらか健康法』(光文社カッパブックス・2002年)、『最新・最強のサプリメント大事典』(昭文社・2004年)などがある。
-
連載「つたえること・つたわる...
はじまりの日本語――きこゆ・うたふ・かたる・つたふ「オノマト
連載 2024-03-26
-
連載「つたえること・つたわる...
ゆかいな日本語――逆さことば、しりとり、あたまとりをたのしむ
連載 2024-02-27
-
連載「つたえること・つたわる...
気になる日本語――同音異義語、異字同訓をダジャレ、謎かけであ
連載 2024-02-13
-
連載「つたえること・つたわる...
地名――大地に記された〈あしあと〉、語り継がれる〈ものがたり
連載 2024-01-23
-
連載「つたえること・つたわる...
はじまり:由来→これまで:変遷→いま:現在→これから:将来。
連載 2024-01-09
-
連載「つたえること・つたわる...
エンゼルス(天使たち)から、ドジャース(ブルックリンの子ら)
連載 2023-12-26
-
連載「つたえること・つたわる...
「かなしみ」によりそう、「おもい」のちから。「大悲」は風のご
連載 2023-12-13
-
連載「つたえること・つたわる...
花びらは散る、花は散らない。散らない花を生きる。認知症の人の
連載 2023-11-29
-
連載「つたえること・つたわる...
「認知症の患者」ではない、「認知症の人」との超コミュニケーシ
連載 2023-11-14