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連載コラム「つたえること・つたわるもの」②

漢語で伝える「名文」より、ひらがなで伝わる「達意の文」を。

連載 2016-10-11

出版ジャーナリスト 原山建郎

 かつて雑誌『主婦の友』の取材記者だった私の文章スタイルは、いまでも『主婦の友社の用字用語』(入社時に貸与され、退社時には返却する、文章作成の手引書)が基本である。

 ①漢字の読み方が2種類あるときは、原則として「開く」、つまり「ひらがな」表記にする。
 ○~するとき(時)、○~とい(言)う、○~すること(事)、○子ども(供)は、いずれも時(じ)・言(げん)・事(じ)、供(きょう)と読まれるおそれがある。したがって、読み違いしやすい漢字表記ではなく、読み方がひと目でわかる「ひらがな」表記に替えたほうがよい。

 ②同じ言葉でも、時と場所と使用目的によって、漢字、ひらがな、カタカナをうまく使い分ける。
 ●桜の花。さくら貝。あいつはサクラだ。●子ども。子供。こどもの日(五月五日)。コドモまんが。
 ●薔薇の花。バラ科サクラ属。ちりぢりばらばら。●大人料金。おとな(大人)しい。オトナの女性。

 ③常用漢字表にある漢字であっても、「ひらがな」表記にしたほうが読みやすい。
 ☆出来る→できる、☆続く→つづく、☆~余り→あまり、☆~程→ほど、☆予め→あらかじめ

 ④接頭語的にあるいは、補助動詞として使われるときは、「ひらがな」表記が妥当である。
 ◆とり(取り)壊す、とり(取り)乱す、◆ご(御)親切に、◆絵本を読んでみる(見る)、◆来てほしい(欲しい)、◆買ってくる(来る)、◆Kという(云う)人、

 大学時代、所謂(いわゆる)名文を書くためには、日ごろから教養を磨くだけでなく、就中(なかんずく)難解な漢語を用いる心がけが肝要(かんよう)で、それが即ち(すなわち)一流の書き手だと思っていた私が配属された『主婦の友』では、「ひらがな」だらけの文章を書かされた。そんなとき、先輩記者から誘われる酒場(入社後1年間はタダ)での飲みニケーションは、貴重な実戦的文章教室となった。

 ★所謂→よくいわれる、★就中→なかでもとくに、★肝要→たいせつ、★即ち→つまり

 なるほど、どれも当たり前の「ひらがな」語ばかりではないか。これではまるで小学校時代の国語の時間に逆戻りである、などと少し酔いのまわった頭で考えていると、先輩から痛棒の一撃を食らった。

「難しいことを難しく書くのは、誰でもできる。難しいことをわかりやすく書くのが、雑誌記者の腕だ」

 後年、『わたしの健康』(現在は『健康』)の編集長を務めるようになってから、たとえば医学・健康分野の記事を書くときに重要なことは、その分野の専門的知識を得るための勉強ではなく、取材先の医師や栄養士に「わかりやすく言うと~ですか?」「たとえば~のようなことでしょうか?」と粘り強く質問して、一般読者に伝わるレベルまでトコトン噛み砕く「達意の文」だと気づかされた。『主婦の友社の用字用語』に書かれている「料理記事で注意を要する点」は、そのまま「達意の文」の基礎編となっている。

 ▲料理記事は、材料と作り方、盛り方、食べ方、(調理の)コツ、応用、献立などから成っている。材料に出ていて、作り方でふれていないなどということのないように。調味料などで、材料の中に書き入れないことはあるが。▲調理過程の説明に不用意はないか。煮る、焼く、もどすなどという必要作業の叙述が抜けてはいないか。▲値段、所要時間およびその表記についての吟味。

難しい専門用語(漢語)で伝える「名文」より、内容を噛み砕いたひらがなで伝わる「達意の文」を。

【プロフィール】
 原山 建郎(はらやま たつろう) 
 出版ジャーナリスト・武蔵野大学仏教文化研究所研究員・日本東方医学会学術委員

 1946年長野県生まれ。1968年早稲田大学第一商学部卒業後、㈱主婦の友社入社。『主婦の友』、『アイ』、『わたしの健康』等の雑誌記者としてキャリアを積み、1984~1990年まで『わたしの健康』(現在は『健康』)編集長。1996~1999年まで取締役(編集・制作担当)。2003年よりフリー・ジャーナリストとして、本格的な執筆・講演および出版プロデュース活動に入る。

 2016年3月まで、武蔵野大学文学部非常勤講師、文教大学情報学部非常勤講師。専門分野はコミュニケーション論、和語でとらえる仏教的身体論など。

 おもな著書に『からだのメッセージを聴く』(集英社文庫・2001年)、『「米百俵」の精神(こころ)』(主婦の友社・2001年)、『身心やわらか健康法』(光文社カッパブックス・2002年)、『最新・最強のサプリメント大事典』(昭文社・2004年)などがある。

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