連載「つたえること・つたわるもの」(43)
「締め切り(納期)」のお願い、「締め切り(収穫)」というゴール。
連載 2018-06-27
出版ジャーナリスト 原山建郎
いまから50年前(1968年)、弱冠22歳で『主婦の友』編集部に配属され、あこがれの新前記者となった私は、何はともあれ、毎月の「締め切り」の数日前を目安に、原稿作成(脱稿)のピークを設定した。当時の編集部は、いま話題の「働き方改革」や「パワハラ」とはまったく無縁の世界で、たとえば、デスクに「この原稿はつまらない」と突っ返されても、「原稿のどの部分が、どうつまらないのですか?」などと聞かずに、「はい、わかりました」と言って、ただひたすら二度、三度と原稿を書き直すしかなかった。
また、先輩記者から「今後一年間は、ただで飲ませる」と言われて喜んだが、「ただし、(酒席を)誘ったら、断るな」と条件がついた。数日後、夕方の編集部で、一所懸命原稿を書いていると、「オイ、(飲みに)行くぞ」と声がかかる。「まだ、原稿が終わっていません」と言うと、「そんなの、今晩じゅうに書けっこない。明日にしろ」と連れ出され、午後6時、御茶ノ水駅前の居酒屋に直行する。それから新宿にタクシーを飛ばし、二次会、三次会のはしご酒。延々(私はウイスキー一本半を、濃いめの水割りで飲んだ)11時間、解散は午前5時。新宿からタクシーで清瀬市にあるデスク(課長)の家にお邪魔する。しかし、布団で寝たのは二時間ほど。すぐに起こされて朝食、清瀬から池袋経由でお茶の水の主婦の友社へ出勤する。
「原山! 原稿は書けたか」と、涼しい顔の先輩記者。「いいえ、まだです」と、ひどい二日酔いの私。〈昨晩、「そんなの、明日にしろ」と言ったでしょう〉と、思わず喉元まで出かかった言葉を飲み込む。もちろん、先輩記者は冗談で言ったのだが、新前記者にとっては「締め切り」厳守はミッションなのだ。
いまでは想像もできないことだが、毎月、何本かの記事を「締め切り」までに書いて、デスクに提出するのだが、例によって「この原稿はつまらない」で書き直し、結果的に原稿没の屈辱が半年間もつづいた。そして半年後、『主婦の友』4月号に4ページ(200字×20枚)の記事が載った。記事中の写真も、写真部で手ほどきを受けたカメラ、ニコンFでの撮影だ。もちろん、4月号の発売日にも、「オイ、(飲みに)行くぞ」と声がかかった。二軒目の居酒屋で、いつになく上機嫌の先輩記者から、エールを送られた。
「雑誌はプロの世界で、学校じゃない。70万部(発行部数)にふさわしい原稿だけを選んで載せる」
いま、読み返してみると、お世辞にもうまいとはいえないが、なかなか勢いのある文章である。
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