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連載コラム「つたえること・つたわるもの」①

『暮しの手帖』の商品テスト、『主婦の友』の料理スタジオ。

2016-09-27

 
出版ジャーナリスト 原山建郎

『主婦之友』創刊号(1917年) (写真:主婦の友社)

『主婦之友』創刊号(1917年)
(写真:主婦の友社)


 主婦の友社創業100年記念OB会が、9月18日、東京・神田の学士会館で開催された。

 大正5(1916)年9月、東京家政研究会(主婦の友社の前身)の看板を掲げた石川武美(創業者)は、『貯金の出來る生活法』、『實驗千種・手輕でうまい經濟料理』(上下二巻)をヒットさせ、その利益を元手に大正6(1917)年2月、『主婦之友』3月号を創刊した。その後、激動の戦前戦後を耐え抜いて、私が入社した昭和40年代後半には、平月号は70万部発行で返品率は5%前後、家計簿付きの新年号は139万部発行で返品率は0.05%(ほぼ完売)を記録した。近年、雑誌の平均返品率が40%を超える現状を考えると、いまでは想像もできない「お化け」雑誌だった。しかし、創刊から足かけ92年目、平成20(2008)年5月発売の『主婦の友』6月号をもって休刊(実質的な廃刊)、数え年92歳での「リタイア」となった。

 NHKの連続テレビ小説『とと姉ちゃん』で、社長の小橋常子(高畑充希)と編集長の花山伊佐治(唐沢寿明)が創刊した雑誌『あなたの暮し』は、広告を入れないことで知られる隔月刊誌『暮しの手帖』(大橋鎭子社長、花森安治編集長)がモデルだが、その特徴のひとつに「商品テスト」がある。社内に洗濯室、台所、裁縫室、化学室を設置し、昭和29(1954)年の「日用品の商品テスト報告その1 ソックス」を皮切りに、トースター、アイロン、電気洗濯機など、平成19(2007)年までの53年間、とにかく掲載するものはすべて自分たちで試した。この編集姿勢が高く評価されて、1970年代には90万部台まで発行部数を伸ばし、2015年の印刷部数調査(日本雑誌協会)でも、手堅く19万部を維持している。『美しい暮しの手帖』(のちに『暮しの手帖』)は昭和23(1948)年の創刊だが、68歳の現在も堂々の「現役」である。

 昭和43(1968)年、『主婦の友』編集部(読み物課)に配属された新前記者(原山)は、初めての原稿書きで毎晩のように残業が続いていた。ある晩、「原山君、料理スタジオにおいで」と料理課の先輩記者から声がかかった。料理スタジオに入ると、「これ、味見してみて」と、肉料理の一皿が出てきた。夕食抜きで悪戦苦闘中の私には願ってもないお誘い、「ゴチ」に感謝しながら先輩記者のレクチャーに耳を傾ける。

 まず、料理研究家に実際の料理を作ってもらい、調理プロセスと盛り付け(完成)写真を撮る。担当記者は、材料や調味料の分量、調理の手順やコツなどをメモする。そして、『主婦の友』料理スタジオに戻ってから、取材したレシピ(手順書)通りにもう一度作り直し、料理研究家の「味」になるかどうか、念には念を入れる。つまり、「味見」は単なる「ゴチ」ではなく、取材したレシピの「再現テスト」だったのだ。

 あるとき、料理研究家・酒井佐和子さんの浅漬けを私が取材することになり、料理課の先輩記者から弁当箱(プラスチック容器)を渡され、撮影が終わったら必ず持ち帰るように言われた。カメラマンの助けを借りて何とか取材を終えた私が、撮影後の浅漬けを持参の弁当箱に詰めていると、酒井さんからひと言。

「さすが『主婦の友』さんね。最近の雑誌取材では、撮影後の料理はそのまま生ゴミ袋に捨てて帰るのよ!」

 『暮しの手帖』の商品テストにも、『主婦の友』の料理スタジオにも、作り手へのリスペクトがあった。

【プロフィール】
 原山 建郎(はらやま たつろう) 
 出版ジャーナリスト・武蔵野大学仏教文化研究所研究員・日本東方医学会学術委員

 1946年長野県生まれ。1968年早稲田大学第一商学部卒業後、㈱主婦の友社入社。『主婦の友』、『アイ』、『わたしの健康』等の雑誌記者としてキャリアを積み、1984~1990年まで『わたしの健康』(現在は『健康』)編集長。1996~1999年まで取締役(編集・制作担当)。2003年よりフリー・ジャーナリストとして、本格的な執筆・講演および出版プロデュース活動に入る。

 2016年3月まで、武蔵野大学文学部非常勤講師、文教大学情報学部非常勤講師。専門分野はコミュニケーション論、和語でとらえる仏教的身体論など。

 おもな著書に『からだのメッセージを聴く』(集英社文庫・2001年)、『「米百俵」の精神(こころ)』(主婦の友社・2001年)、『身心やわらか健康法』(光文社カッパブックス・2002年)、『最新・最強のサプリメント大事典』(昭文社・2004年)などがある。

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