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連載「つたえること・つたわるもの」139

また、明日も一緒にご飯食べようね。ね、あおちゃん。

タイヤ 2022-06-28

 出版ジャーナリスト 原山建郎

 先々週、武蔵野大学校友支援課(同窓会)からのメールが届いた。

 そこには「2003年度卒業生のIさんから、最近執筆したエッセイで小さいけれど賞を取り、在学時に土曜日の授業で文章を書くことを教えてくださった原山先生に、ご報告とお礼をかねてご連絡したいとのことでした。特に問題がなければ(原山の)メールアドレスをお伝えしたいのですが」と書かれていた。

 ほどなく届いたIさんからのメールには、①武蔵野女子大学のマスコミ就職対策講座の第1期受講生だった。②毎回、書いてきた作文を1人ずつ発表し、それぞれ講評・アドバイスを受けた。③講座終了後に、「文章力はもういいから、(当時書いていた)高校野球観戦記は続けなさい」と助言されたことをよく覚えている。④時が経ち、自分がこれだと思ったものは続けていきなさい、という意味だったのかなぁと、自分なりに解釈をし、昨年、息子(7歳、自閉症)が支援学校に通い始め、時間に少し余裕ができたこともあり、急にまた書くという瞬間を楽しみたくなった……と、卒業後20年あまり、Iさんの「ものがたり」が綴られていた。

 さらに、うれしいニュースとして、「私事ではありますが、“第19回二十四の瞳 岬文壇エッセー募集”に応募したところ、次点で入選(優秀作品)することができ、ホームページに作品の掲載もしていただきました。今回、原山先生にご連絡をさせていただいたのは、先生に感謝の気持ちをお伝えできたならと思い、思い切って武蔵野大学(前武蔵野女子大学)に連絡をさせていただきました」と書かれていた。

 私が武蔵野女子大学で「マスコミ就職対策講座」を担当したのは、2001年ごろだった。のちに「書きコミ(書きことばでコミュニケーションの略)」と名前を変える同講座の宿題(取材→作文)では、取材力養成Ⅰ(比較3原則=取材手順の確認と目の付け所)として「ドトールとスタバの違い」、取材力養成Ⅱ(トレンドをさがす=取材手法の独創性と比較項目の意外性)として「セブンイレブンとローソンの違い」というテーマを与えた。2003年当時、トランネット通信(翻訳集団のメルマガ)の連載コラム「編集長の目」に、この宿題をとり上げた。タイトルは『ココア』と『おむすび対決』。参考までに、その一部を再録する。Iさんもまた、これら取材実習を兼ねた宿題に頭を悩ませ、四苦八苦しながら、作文を書いていたのである。

「書きコミ」講座で、コーヒーショップのスターバックスとドトールを取材して、その違いを書く宿題を出した。店舗の雰囲気や店員の応対、メニューの表示や価格の差、店内での喫煙は禁煙か分煙かなど、学生たちはそれぞれ力の入った作文を発表した。コーヒーが苦手なのに、無理に飲んで気持ち悪くなった勇敢(?)な学生まであらわれる始末……。
いずれ劣らぬ力作のなかに、『ココア』というタイトルの作文があった。コーヒーが苦手で、タバコをたしなむ学生Aは、ドトールでは喫煙席のある店内で、店内禁煙のスターバックスでは屋外のテラスで、ココアを飲んでくつろぐ習慣があった。彼女は二つの店でのココアの成分や作り方の違い、ココアを飲むときの気分を作文にまとめた。コーヒーショップの違いをあらわすのに、あえて「コーヒー」にこだわらず、好きな「ココア」と喫煙を用いて、自分の伝えたい「書きコミ」にみごと成功した作文である。

 また、大手コンビニのセブンイレブンとローソンの違いを比較する宿題を出したときは、『ザ・おにぎり』、『おむすび対決』というタイトルの作文が登場した。

 『ザ・おにぎり』は、両方のコンビニで同じ「鶏五目めし」おにぎりを実際に食べ比べ、その食感や鶏肉の量、おにぎりの形、握った硬さなどを、くわしくレポートした作文である。かたや『おむすび対決』は、同じマヨネーズで和えたシーチキン入りおむすびが、セブンイレブンでは「シーチキン」、ローソンでは「シーチキンマヨネーズ」と表示されていることに着目した。そして、シーチキンのほうがエネルギー(熱量)が10キロカロリー高く、「マヨ度」でもシーチキンマヨネーズがまさることから、マヨラー(マヨネーズ味愛好者)である学生Bは、断然、ローソンのおむすびに軍配を上げたという作文にまとめた。

 自分が本当に「伝えたいこと」は、これらのタイトルのように、本来「ひと言で表現できる」はずである。

(トランネット通信 原山建郎「編集長の目」№21)

 さて、Iさんのメールに添付されていたURL第19回 二十四の瞳岬文壇エッセー募集 選考結果 | 小豆島 観光 (https://www.24hitomi.or.jp/essay/kekka_19.html)を検索し、優秀作品を受賞した「おいしいね」をプリントアウト。ゆっくり読む。

 私には六歳になる息子がいる。みんなから”あおちゃん”と呼ばれていた。彼は知的障害を伴う自閉症だ。そのため、言葉がしゃべれない。人とコミュニケーションをとるのが苦手だったりもする。オムツもまだ外れていない。(中略)
息子のオムツや洋服を着替えさせたり、癇癪やパニックにつきあったり、危険がないように常に気を配り続けたり…… 毎日あおちゃんのお世話でくたくたになることも多い。けれど時々、あおちゃんは私にちょっとしたプレゼントをくれる。
昨日の晩も、ちょうど夕飯ができる頃になると、あおちゃんは台所にやってきて、コンロの上のお鍋やフライパンの中を覗いていた。

「今日は肉じゃがだよ」
という私のそばで、背伸びをしながらあおちゃんはお鍋の中をじっと見つめている。
「お腹すいた?」
と私が尋ねると
「うっ」
とあおちゃんは元気に言って、はっきりと頷く。

炊いたごはん、豆腐とベーコンの味噌汁に、グリンピース入りの肉じゃが。食卓に並べられた夕飯を、目をきらきらさせて、嬉しそうに眺め、私の「いただきます」と同時に手を合わせていただきますの合図を示すあおちゃん。
(中略)
そして今日も、あおちゃんはおいしいごはんに出会って、幸せそうだった。おかわりがほしくて、いつの間にか味噌汁のお椀を両手で包み込むように持ってこちらを見ていた。

「おかわり、する?」と私。
「うっ」とあおちゃん。
また明日も一緒にご飯食べようね。
ね、あおちゃん。

【優秀賞 ●テーマ「希望」 タイトル「おいしいね」 伊庭幸(筆名)】

選考委員をつとめた児童文学作家、あさのあつこさんの選評もあたたかい。

『おいしいね』は、あおちゃんと作者のやりとりが宝石のように美しく、読み終えてからも、あおちゃんが傍らにいる気がしました。あおちゃんの魅力が確かに伝わってきます。優れた一編でした。

Iさんの「おいしいね」を読んだあと、その後、男女共学になった武蔵野大学で非常勤講師となり、担当した図書館司書の授業で「雑誌はお弁当箱」というタイトルの授業資料があったのを思い出した。

私(原山)の「オレ流コミュニケーション」では、「“もったいない”を漢字で書くときの勿体は和製漢語で、本来は物体と書くらしい。したがって、“もったいない”の意味は、文字通り“物体(ぶったい)ではない”ということではないか」と解釈したい。さらに言うと、「見た目は“物体”そのものだが、観点を変えてみると単なる「物体」ではないことに気づく(はずの)もの」なのだが、これもある意味で禅問答に近い。

たとえば、母親が子どものために作った「昼食弁当」は、子どもが昼休みにその弁当を食べるとき、弁当箱に入っているご飯やおかずは、科学的に言えばもちろん「物体(もの)」だが、その子にとっては単なる「物体」ではない。この子に食べさせようと前の晩から献立を考え、早起きして作った母親の愛情を感謝していただく、つまり(弁当箱の)ご飯やおかずを通して、慈愛のこころをいただくことにほかならない。

カナダ出身の文明批評家、マーシャル・マクルーハンは、「メディアはメッセージ」そのものだと喝破しているが、この昼食弁当の譬えでいえば、「(ご飯とおかずの入った)弁当箱」がメディア(中間に位置する情報の媒体)、「おいしく食べてほしい」と願う母親の気持ちがメッセージ(語りかける思い)であると考えられないだろうか。母親とその子どもは日々の“昼食弁当”を介して、「召し上がれ」と「いただきます」というメッセージを共有し、親子ならではの濃密なコミュニケーションを図ることができる。


(H27武蔵野大学「図書館基礎特論」マス・メディア研究Ⅱ「雑誌はお弁当箱」より一部抜粋)

あれから20年たったいま、「私は教え子」と言ってくれるIさんへの返信メールを、次の言葉で結んだ。

〈今日は肉じゃがだよ〉(めしあがれ)と〈両手を合わせていただきますの合図〉(いただきます)。
〈また、明日も一緒にご飯食べようね〉とわが子に声をかける、母の〈おいしいね〉というメッセージ。
あおちゃん、きょうもげんきに、おかあさんがつくったごはんをたべようね!

【プロフィール】
 原山 建郎(はらやま たつろう)
 出版ジャーナリスト・武蔵野大学仏教文化研究所研究員・日本東方医学会学術委員

 1946年長野県生まれ。1968年早稲田大学第一商学部卒業後、㈱主婦の友社入社。『主婦の友』、『アイ』、『わたしの健康』等の雑誌記者としてキャリアを積み、1984~1990年まで『わたしの健康』(現在は『健康』)編集長。1996~1999年まで取締役(編集・制作担当)。2003年よりフリー・ジャーナリストとして、本格的な執筆・講演および出版プロデュース活動に入る。

 2016年3月まで、武蔵野大学文学部非常勤講師、文教大学情報学部非常勤講師。専門分野はコミュニケーション論、和語でとらえる仏教的身体論など。

 おもな著書に『からだのメッセージを聴く』(集英社文庫・2001年)、『「米百俵」の精神(こころ)』(主婦の友社・2001年)、『身心やわらか健康法』(光文社カッパブックス・2002年)、『最新・最強のサプリメント大事典』(昭文社・2004年)などがある。

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