連載コラム「ゴム業界の常識・非常識」(50)
新幹線の窓ガラスはどのゴムで取り付けられているか?
連載 2025-03-03
加藤事務所代表取締役社長 加藤進一
東海道新幹線の窓は大きさ幅500ミリ、高さ520ミリです。これはN700系の新幹線車体の窓で、その前の300系の車体では、幅780ミリ、高さ660ミリともう少し大きいものでした。ではこの窓のガラスは車体にどうやってとりつけられているのでしょう? 窓枠ゴムで取り付けられています。ではそのゴムはどんなゴムでしょう? 耐候性が必要ですからEPDM? 耐油性も必要だからクロロプレンゴム? 昔から変わっていないから天然ゴム? いやシリコーンゴム?
正解は多硫化ゴムです。余り知られていないゴムですが、日本ゴム協会誌1975年5月号に多硫化ゴムの解説があります。それによると、1929年米国 Thiokol Chemical Corp.によって商業生産が始まったゴムです。今は東レファインケミカルで国内生産されています。別名は商品名である、チオコールゴムです。チオコールゴムはゴム関係者でもあまり知られていないゴムです。
鉄道総合技術研究所によると、今でも東海道新幹線N700系の新車両では、この多硫化ゴム(チオコールゴム)によって窓ガラスが車体に取り付けられています。このゴムは加硫時間が長いのが欠点です。昔のO系新幹線時代からこのゴムが窓枠ゴムとして使われており、どうして今でも使われているのかのか? それは、実績があるゴムを使いたい、配合を変えたくないからだそうです。自動車産業向けのゴムを考えると、EPDMやクロロプレンゴム、シリコーンゴムの方がよさそうな気がしますが、鉄道車両はいままで問題がなかったという実績が重んじられるそうです。

東海道新幹線の窓。多硫化ゴムで透明ポリカーボネートの窓板が車体に取り付けられています
もっとも窓ガラスが割れて、交換する時には、この窓枠ゴムはシリコーンゴム製に交換されるそうです。交換作業時に加硫、硬化する時間を考えると、多硫化ゴムでは時間がかかる過ぎるからでしょう。もっともシリコーンゴムは、ゴムから発生するシリコーン成分が車体外側に付着してしまい、その後車両使用時にシリコーン成分の撥水性のため車体の汚れがまだら模様になり、それはそれで問題になるとか。
ところで窓ガラスと言いましたが、最近の東海道新幹線の窓はガラスではありません。軽量化のために、ガラスではなくポリカーボネート製の窓になっています。しかしポリカーボネート製の窓は、実は細かい傷がつきやすく、窓がうすく曇って見えるようになるので、外をきれいに見せるには、ガラス製がいいとか? 東北新幹線のE5系の窓ガラスはAGCの合わせガラス製ですので、これは窓から外がよく見えます。
以上日本ゴム協会関東支部2月技術講演会「鉄道総合技術研究所による、鉄道車両用のゴム部品に関するこれまでの取り組みと今後の展望」の後の懇親会での話でした。
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