PAGE TOP

連載コラム「ゴム業界の常識・非常識」(49)

トランプ新政権になると、日本のゴム業界はどうなるか?

連載 2025-01-08

加藤事務所代表取締役社長 加藤進一
 2025年1月になり、間もなく米国ではトランプ氏が大統領に就任します。すでに、中国からの輸入製品には10%(最終的には60%)の輸入関税を、メキシコとカナダからの輸入製品には25%の輸入関税を課税する、その他の国からの製品輸入にも10%課税すると声明を発表しています。中国との間で輸入関税を引き上げることは想定内でしたが、メキシコ、カナダ、さらにその他、日本、東南アジア諸国からの輸入にも大幅な輸入関税をかけるという驚きの話です。だいたい今時全製品に10%以上の輸入関税をかける国は少ないのです。ゴム産業が発達している国では、このような輸入関税があるのは中国、インド、一部のアジアの国ぐらいです。一方トランプ次期大統領は、これはディール、取引だとも言っています。つまり相手が交換条件を出せば、この輸入関税は下げるという含みです。

 これらの大幅な輸入関税が本当に実施された場合、日本、日系ゴムの会社はどうなるか考えてみましょう。

 中国と米国との間はすでにゴム製品、ゴム原材料の取引はかなり少なくなっています。米中貿易戦争が激しくなることを予想して、日本のゴム会社は、中国工場で生産して米国へ輸出していたゴム製品を、アジア、タイ、インドネシア、ベトナム等にすでに生産移管しています。中国から米国へのタイヤの輸出もこの5年間で大幅に減りました。またゴム原材料で米国から中国へ輸出されるものは、一部の合成ゴム、接着剤ぐらいで、実際あまり影響がでません。

 心配なのはメキシコで作ったゴム製品を米国に輸出するケースです。日本のゴム会社は米国の日系自動車生産のためのゴム製品を米国工場で生産していましたが、米国内の人件費高騰、人手不足のため、かなりの部分をメキシコにゴム工場を建設して生産移管しました。日産自動車のように、自動車生産自体をメキシコに一部移管したケースもあります。これは日系だけでなく、米国ゴム業界も生産の約1/3をメキシコに移管してきました。またメキシコで生産される自動車の77%は米国に輸出されるとも言います。すでに、ブリヂストン、横浜ゴム、豊田合成、西川ゴム工業、鬼怒川ゴム工業、住友理工、INOAC、フコク、倉敷化工、モルテン、NOK、東海興業、内山工業、エラストミックス、タイガースポリマー、山下ゴム、ニチリン、プロテリアル、レゾナック・ブレーキなど、これらの会社はメキシコにゴム工場を作り、最終仕向け地が米国になるゴム製品を製造しています。米国側で25%も輸入関税をかけると、これらのゴム工場の採算が大幅に悪化するでしょう。また自動車完成車に25%の輸入関税をかけると、その影響は大きくなります。但し、前述のようにトランプ氏は、これはディールであると言っています。つまりメキシコ政府が不法移民をメキシコから米国に送り出さなければ、この輸入関税は付加しないということです。トランプ氏は米国での製造業復活、不法移民流入阻止を掲げています。実際中国やメキシコ、カナダ、その他の国からの輸入関税を引き上げれば、米国での自動車価格は確実に上がり、その他の商品、例えば、中国からの玩具、衣料品、家具、電気製品の価格も上がり、インフレとなり、また米国のGDPにも悪影響がでます。トランプ氏がどこまで本当に輸入関税引き上げをするかにより、日系メキシコ工場の事業計画が大幅に変わることになります。

鬼怒川ゴム工業 メキシコ工場(同社のサイトより)


 さらにその他の国からの米国輸入品にも10%の輸入関税をかけるとトランプ氏は言っていますが、日系ゴム会社がアジア、例えばタイ、ベトナム、インドネシアでゴム製品を製造して米国に輸出しているゴム部品に対して10%の輸入関税がかかると、これは相当影響が出ます。米国生産がコスト高になり、人手が集まらないので、アジア工場に生産移管したわけですから、それを今更生産を元に戻せと言われても、困ります。実際米国工場に戻すにしても、人件費が高く、人手不足の米国工場では、それはそれで問題が発生します。

 これらの輸入関税UPはまだ決定したわけではありません。実際どこまで、どの国に対して、何%関税付加するのか決定してからでないとその影響は判断できません。

 今できることは、いろいろなケースを想定して、シミュレーションをしておくことでしょう。いろいろなケースに対して、自社の生産をどう配置するか、移管することも必要になるかもしれません。中国から米国へのゴム製品の販売は、今後不可能になるでしょう。

 ブリヂストンのケースのように、タイで生産したトラック・バスタイヤの米国への輸出に対して、米国輸入時にいきなり2024年秋に48.39%アンチダンピング課税されるということも起こりうることです。折角生産改善でコストダウンしたのに、それをアンチダンピング課税の理由にされるとは。米国のゴムタイヤ産業は政権に対していろいろ影響力を発揮します。心配なことは、米国ゴム産業界の労働組合が全米鉄鋼労働組合USWと同じ労働組合であることです。日本製鉄のUS STEEL社買収を反対した、強力なロビー活動をするUSWです。米国のゴム産業を守るために、大統領府に強力に圧力をかけるでしょう。

 またトランプ氏が大統領になると、石油価格が下がると言われています。米国が大事だとして米国内のシェールオイルの増産をして、結果世界の石油需給バランスが崩れ、やや石油が余ることになるだろうということです。結果合成ゴムやカーボンブラックの価格も下がる可能性があります。

 実際にメキシコから米国への輸入品に25%の輸入関税が実施されるか?日本、アジアから米国への輸入品に10%の輸入関税が実施されるか? これらに注目していきましょう。

(この内容は2024年12月に加藤事務所が日本ゴム工業会にて講演した内容の一部となります)

関連記事

人気連載

  • マーケット
  • ゴム業界の常識
  • 海から考えるカーボンニュートラル
  • つたえること・つたわるもの
  • ベルギー
  • 気になったので聞いてみた
  • とある市場の天然ゴム先物