連載コラム「ゴム業界の常識・非常識」(48)
有機ゴム薬品会社は、ゴム薬品だけを作っているわけではない
連載 2024-11-07
加藤事務所代表取締役社長 加藤進一
大内新興化学工業、川口化学工業、三新化学工業、精工化学の有機ゴム薬品製造会社は、ゴム用の加硫促進剤、老化防止剤、ワックス等の、いわゆるゴム薬品を製造販売しています。日本の多くのゴム会社、タイヤ会社は、これらの有機ゴム薬品を購入して、ゴムの加硫に使用しています。日本ではこれらの会社が合計で年間約2~3万トンゴム薬品を製造していると言われています。タイヤ会社は輸入品、多くは中国製のゴム薬品を購入していますが、ノンタイヤ、自動車ゴム部品、工業ゴム製品のゴム会社はこれらのゴム薬品会社から国産品ゴム薬品を購入しているのでしょう。
これらのゴム有機薬品会社は、ゴム薬品だけを製造しているのでしょうか? いや違います。これらの会社はその販売金額の半分以上はゴム薬品ですが、それ以外に多くの化学品をゴム用途以外の分野向けに製造しています。
川口化学工業(https://www.kawachem.co.jp/)では、2023年11月期では生産金額ベースで全体に対してゴム薬品を53%、化学中間体を15%、樹脂薬品を9%生産していました。化学中間体とは、医薬品中間原料、染料顔料中間体、農薬原料、防錆剤です。樹脂薬品とは酸化防止剤、安定剤です。約半分はゴム薬品ですが、約半分はゴム薬品ではないのです。
大内新興化学工業(https://www.jp-noc.co.jp/)は販売の約7割がゴム薬品だそうですが、3割は医薬品原料、果実用抗菌剤、環境薬剤です。環境薬剤とは重金属固定剤で、焼却灰、飛灰中の重金属を固定できます。またRAFT剤を開発し量産化しました。加硫促進剤の原料である二硫化炭素を使用して、このRAFT剤を使うことにより、樹脂重合時に、例えばメタクリレート樹脂で、分子量分布が狭いポリマー、精密ラジカル重合を行うことで、特色のある樹脂を作ることができます。そのRAFT剤の量産品を提供できるとのことです。
三新化学工業(https://www.sanshin-ci.co.jp/)でもゴム薬品以外にポリマーのカチオン重合開始剤、重合調整剤、重合禁止剤を製造しています。防錆剤もあります。
精工化学(https://seiko-chem.co.jp/)はゴム用老化防止剤、ワックス、防着剤で有名ですが、それ以外にポリマー重合禁止剤、染料顔料中間体、染毛剤、重合開始剤等を製造しています。
どうしてゴム薬品会社はゴム薬品以外も作るようになったのか?いろいろ理由がありますが、その一つは、次のとおり。昔は日本のタイヤ会社がこれらの会社から国産ゴム薬品をたくさん購入していました。ところが中国に巨大なゴム薬品会社が誕生し、増設を繰り返し、ゴム薬品をコスト安くできるようになりました。日本のゴム薬品会社に対して製造規模では10倍ぐらいの会社がたくさんあります。そのため日本のタイヤ会社は輸入品のゴム薬品をほとんど使用するようになってしまいました。そのため、国内のこれらのゴム薬品会社はタイヤ向けの販売が激減し、会社によっては、タイヤ会社との取引がなくなり、その埋め合わせに医薬品中間原料、農薬中間体、顔料中間体、その他の化学品を一生懸命開発して、生産するようになったのではないでしょうか?
製造ラインはゴム薬品もこれらの化学品中間体も似たようなものです。ただ医薬品中間原料の製造には異物が入らないように厳しい制約があります。建屋も専用な建物が必要です。また原料、例えば硫黄系化学品、二硫化炭素は引火性があり、ハンドリングが難しいです。これらの原料から派生する化学中間体はゴム薬品会社が得意とする分野です。ファインケミカルの世界です。
現在中国のカントリーリスクが議論されています。安全保障上の問題もあります。経産省も、タイヤ会社における原材料ソースの安全保障の問題を危惧しています。今後タイヤ会社は国内ゴム薬品会社から加硫促進剤、老化防止剤を買い始めるかもしれません。当然価格は中国品に比べて高いですが、これは安定供給のためのコストとして割り切るしかないでしょう。もっとも今の国内ゴム薬品会社のタイヤ会社向けの供給能力があるかどうか?そもそもタイヤ会社の方針のせいで、供給能力を他の用途に振り向けざるを得なかったのですから。今更・・・といわれるかも?
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