連載コラム「ゴム業界の常識・非常識」(47)
天然ゴムはEUDR対応品と非対応品に分かれる
連載 2024-09-03
加藤事務所代表取締役社長 加藤進一
天然ゴムの世界では、EUDR問題で揺れています。EUDRとはEU Deforestation regulationの略で森林の破壊と劣化を防ぐための新たな規制です。EU森林破壊防止規則(EUDR)は2023年6月29日に発効し2024年12月30日以降、EU地域に輸入される木材、パームオイル、コーヒー、カカオ、牛、大豆、天然ゴムとその製品に対して適用されます。天然ゴムで考えると、具体的には天然ゴムの原料(ゴムの木から採ったラテックスやカップラム)を採取した森が、2020年末以降に森林破壊された地区ではないことを示す地理情報を提出すること、その天然ゴム生産時に環境、人権を守っていること、これらコンプライアスを守るデューデリジェンス宣言をしていることが必要で、EUに輸入時にこれらを示す電子ファイルで用意することが必要です。
問題の一つはこの厳密な定義がまだ発表になっていないことです。EUに輸入される天然ゴムだけでなく、タイヤ、ベルト、ゴム製品が対象になります。輸入時のHSコードで40番台(但し合成ゴム、再生ゴム、ゴムホース、避妊具は対象外)の品が対象です。天然ゴムベースのゴムコンパウンドも対象になります。定義が決まっていないのですが、だんだんその概要がわかってきました。12月末実施ですから、今準備しないと間に合いません。
天然ゴムはタイ、インドネシア、インドではどのゴムの森から採取したか、よくわからないのが現状です。天然ゴム工場は場所がわかりますが、その原料はいろいろな場所からの原料(ラテックス、カップラム)が混ざっているです。また原産地の地理情報を取得する必要があり、4ヘクタール以上の土地である場合は、ポイントではなくポリゴン(多角形)で敷地の境界も示す必要があります。つまり、いつその森が開拓したかはっきりわかっている地図デジタルデータが必要です。
タイではタイ天然ゴム公社(Rubber Authority of Thailand)がまとめて地理データを提供してプラットフォームを策定中です。ただタイでは作られていない天然ゴムグレードがあります。ベトナムでは2024年8月現在1工場がEUDR準拠できる体制になりました。インドネシア、マレーシアではこの対応が遅れており今後一部は対応できないかもしれません。このデータを管理して、デューデリジェンス実施をして、輸出時に添付できる電子ファイルを作成できるプラットフォーム(ソフトウェア)はいくつかの会社が提供していますが、その使用料が大変高い。毎年数千万円かかります。それらの会社は欧米にあり、今回このような規制をわざと作って利益は欧米に還流という構図とも考えられます。
その結果EUDR準拠した天然ゴムはプレミアム価格となります。通常の天然ゴムより高くなります。¥50/kg前後高いのでは?まだその相場が決まっていません。かつ8月現在EUで使用される天然ゴム及びEUに輸入される天然ゴム製品をカバーできるだけの天然ゴムの数量がまだ供給確保されていないという問題があり、その囲い込みもあり、現在天然ゴム価格がかなり高騰している面もあります。
加藤はかねてから当社のベトナム合弁会社経由パートナーであるVietnam Rubber Group社にEUDR対応品を出荷できるように要求していた結果、やっとできたので、8月にその工場を日系タイヤ会社の方といっしょに行ってきました。写真のとおり、地図データ、森林開拓年が表示され、工場運営のデューデリジェンス実施も行われ、工程管理もちゃんとやっていることが確認できて安心しました。これで加藤事務所(VRGJAPAN社)ではEUDR準拠の天然ゴムCV50、CV60、L、3L、5Sグレードが提供できます。すでに出荷が始まっています。VRG社はそのプラットフォーム(ソフトウェア)を自社で開発しました。これには感服しました。
EUDR規制は、それ自体はいいのですが、ゴム原料の世界にドタバタで混乱を起こしています。
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