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連載「つたえること・つたわるもの」154

花の名前、月や季節の名前、クリスチャンネームの語源と由来。

連載 2023-02-14

出版ジャーナリスト 原山建郎

「さざんか、さざんか、おはよう。お前はきょうもきれいに咲いてくれて、ありがとう」

 先日、わが家の生け垣に咲く赤い山茶花に、通りかかった年配の女性がやさしく声をかけてくれた。

 懐かしい童謡『たきび(たき火)』に「かきねの かきねの まがりかど/たきびだ たきびだ おちばたき/あたろうか あたろうよ/きたかぜ ぴいぷう ふいている/さざんか さざんか さいたみち/たきびだ たきびだ おちばたき/あたろうか あたろうよ/しもやけ おててが もうかゆい……」と歌われている、ツバキ科ツバキ(カメリア)属、山茶花の漢字名は、もともと日本原産の花だが、中国語ではツバキ科の木を「山茶(山に生える茶の木)」と言い、その花を「山茶花」と呼んでいたことに由来する。「春を代表する木」を意味する「椿」という漢字は、日本で作られた漢字(国字)であるが、中国で「椿(チン)」に該当する植物は日本の椿とは異なるセンダン科の落葉高木「香椿(チャンチン)」のことである。ちなみに、赤い山茶花の花言葉は、「謙譲・あなたが最も美しい」であるという。

 また、「椿」は英語でカメリア(camelia)、学術名はカメリア・ジャポニカ(Camellia japonica)だが、「カメリア」という名前の由来が『英語Ⅰの語源』(太田垣正義著、創元社、1978年)に載っていた。

                 
 camelia(椿)は日本原産で、スペイン人でイエズス会員G.J,Kmelが18世紀にヨーロッパに持ち帰り紹介したことから、その人名に因んだものです。(中略)Dahlia(ダリア)は元はメキシコ産で、スウェーデンの植物学者Andrew Dahlがヨーロッパに紹介しました。同様に人名に因む花の名としてfuchsia(つりうきそう)〈ドイツの植物学者Fuchs、magnolia(マグノリア)〈フランスの植物学者Magnol、があります。
(『英語Ⅰの語源』「第3章 花」45・47ページ)

 きょうは新暦(1年を365日、4で割り切れる年を閏年として、2月に1日加える太陽暦)では2023年2月14日だが、旧暦(月の満ち欠けの周期を基準として、1月を29日か30日、1年を354日と計算し、2~3年に1度、閏月をもうける太陰暦)では1月24日、まだまだ寒い冬のさなかである。Web検索で旧暦表示を調べると、今年は「閏月」をもうける年で、来週の月曜日(新暦の2023年1月19日)は旧暦の2023年1月29日にあたり、旧暦では翌日から2023年の閏1月1日が始まる。そして、新暦の3月20日に旧暦の閏1月29日が終り、新暦の3月21日(春分の日)が旧暦の2023年2月1日となる。

 よく「暦(旧暦)の上では春(立春)ですが……」などと言うが、たとえば二十四節気でいう立春(新暦2月4日・旧暦1月19日)、雨水(新暦2月19日・旧暦1月29日)、啓蟄(新暦3月6日・旧暦2月15日)の季節感をどうとらえたらよいのか、なかなか悩ましいところである。また、旧暦では2月を「如月(きさらぎ)」という。重ね着をして厳しい寒さに備える「衣更着(きさらぎ)」、これから春に向って草木が生えてくる「生更木(きさらぎ)」から転じたとも。梅見月・仲春・雪消月などの別名もある。

 さきの『英語Ⅰの語源』で、2月を表す英語フェブラリー(February)と、春を表す英語スプリング(Spring)を見てみよう。中学時代の英語の授業で教えられたフレーズ、Spring has come(春が来た)は、雪解け水が「泉が弾むように噴出する」春になったのか? いまひとつ疑問だったが、これでストンと腑に落ちた。

 Februaryはラテン語Februariusからきています。この月15日に行われていた「清めの儀式」(feast of purification)に因むもので、Februaryはthe month of purification(清めの月)という意味を持っています。和名まつゆきそう(待雪草)と呼ばれるスノードロップ(snowdrop)は「2月の美しい乙女」(fair maid of February)とも言われ、年のはじめまだ雪のある冬枯れの野に咲く可憐な花です。
(『英語Ⅰの語源』「第2章 時間・曜日・月」31~32ページ)

 Seasonはラテン語動詞serereがその語源ですが、serereの意味はsow(種を蒔く)ですから、seasonはさしずめsowing time(種蒔き時)ということでしょう。植物の実や花を楽しむためにはほぼ2つの季節をさかのぼって種蒔きをする必要がありますが、そのことを念頭において種蒔きすることで深く季節と結びついてもいるのですね。(中略)Springは周知の通り「泉」の意味があります。これは「ある源からとび出す」ことが中心的意味です。植物を考えてみると、冬の間枯れていたり、休止していた状態から一転し「萌え出し成長する」季節が春という訳です。
(『英語Ⅰの語源』「第2章 時間・曜日・月」34ページ)

やまとことば(和語)の「はる(春)」は、草木の芽が「張る」様子から転じたものだが、2シーズンさかのぼって「種を蒔く」タイミングを見計らう、農耕社会の智恵、季節感覚をもう一度見直してみたい。

                                                                                                                                                                  
やはり『英語Ⅰの語源』をひもといて、これから春先に咲く花である、アネモネ(牡丹一華)、デイジー(雛菊)、たんぽぽ(蒲公英)など、その名前の由来(ルーツ)も見てみよう。

★アネモネ(和名/牡丹一華・花一華・紅花翁草)/花言葉 あなたを愛す(赤色)・真実・希望(白色)
 春先の色鮮やかに咲くanemone(アネモネ)は語源的にはラテン語のanimaにさかのぼります。Animaは「生命、息、空気」を意味し、animal、animate(生かす、活気づける)、animation(激励、動画)等の単語の語源でもあります。ですからanimalは息と関係し、イキモノという日本語になっているのは面白い一致ですね。さてanemoneは別名「風の花」(wind‐flower)と呼ばれることもあります。ギリシア神話ではこの花は、美少年アドニス(Adonis)が狩猟の最中に猪の牙に刺されてももに重傷を負い死んだ時、その血のしたたりから咲き出したとなっています。

★デイジー(和名/雛菊、別名/長命菊・延命菊)/花言葉 無意識(赤色)・無邪気(白色)
 daisy(ひなぎく)は春まだ浅い頃、可憐な花をつけ、人々の心を楽しませる花です。中英語(※中世の英語)ではdayeseと書かれ、現代語に訳しますとday’s eyeとなります。そのdayとは「日」、つまり「太陽」のことです。花の中央の黄色の円板形の部分を太陽にみたて、その円板のまわりに放射状に咲く花びらを太陽が放つ光線に見立てた訳です。こんな小さな花と天空に輝くあんなに大きなものを同一視しようとした、昔の人たちの素晴らしい想像力に驚嘆させられます。

★たんぽぽ(和名/蒲公英、別名/鼓草・田菜)/花言葉 愛の信託
 dandelion(たんぽぽ)はその葉の形がギザギザになっていて、ライオンの歯に似ているところからつけられて、フランス語dent de lion(=tooth of lion)から作られた複合語です。Dentist(歯医者)、dental(歯の)はこのdentからきていますし、deとはデラックス(de luxe)の中にもありますが、英語ofに相当する意味を持つフランス語の単語です。
(『英語Ⅰの語源』「第3章 花」37~38ページ)

 このなかで、たんぽぽの和名「蒲公英(ホコウエイ)」は、もともと中国の漢方で用いられる生薬(開花前に採って乾燥させたものを煎じて飲ませる)の名前(蒲公英)をそのまま用いたものである。江戸時代、タンポポの茎を使う子どもの遊びで「鼓草」と呼ばれていたことから、鼓を叩く音のオノマトペ(擬音語)「たん・ぽぽ」となったものだという。

 ところで、人の名前といえば、キリスト教圏でファーストネームによく使われるクリスチャンネーム(洗礼名)がある。昨年、文教大学の社会人向け講座で、12歳のときに母の勧めで受洗したポール(洗礼名)・遠藤周作の小説『侍』をとりあげたとき、仙台藩士・支倉常長率いる慶長遣欧使節団を乗せた、当時は世界最大級の木造帆船、サン・ファン・バウティスタ号の船名( San Juan Bautista)が、「洗礼者(Bautista)・聖( San)・ヨハネ(Juan)」を意味するスペイン語であることを説明しながら、イエスキリストの使徒である「ヨハネ」のような聖人名、たとえば「パウロ(ポール)」などについて調べた資料も配布した。とても興味深いリストになので、西洋人の名前の由来を理解する手がかりとして紹介しておこう。

★英語名・ジョン(John)は、使徒あるいは洗者ヨハネ(Yôḥānān¬¬)に由来する=ヘブライ語で「ヤハウエは恵み深い」を意味する「ヨーハーナーン」が元の形)。ラテン語(ドイツ語)ではこれを受け継いでヨハンネス、ヨハネス(Ioannes、Iohannes、Johannes) と変化した。

◆John(ジョン) 英語、アイルランド英語 Seanショーン/Juan(フアン) スペイン語/Giovanni (ジョヴァンニ)イタリア語/Jean(ジャン)フランス語/João(ジョアン)ポルトガル語/Johannes(ヨハネス)ドイツ語 省略形 Hans(ハンス)、Johann(ヨハン)/Иван(Ivan イヴァン) – ロシア語 

◇俳優・著名人の名前:ジョン・F(フィッツジェラルド)・ケネディ(政治家)、ジョン・レノン(音楽家)/ショーン・コネリー(俳優)・ショーン・ペン(俳優)/フアン・ドミンゴ・ペロン(アルゼンチン大統領)/ジョバン(ニ)・ドメーニコ・カンパネッラ(『銀河鉄道の夜』)/ジャン・ギャバン(俳優)・ジャン・レノ(俳優)/ジョアン・ミロ(画家)/ヨハネ・パウロ二世(ポーランド出身の第264代ローマ教皇。本名はカロル・ユゼフ・ヴォイティワ)/ハンス・クリスチャン・アンデルセン(童話作家)/ヨハン・セバスティアン・バッハ(作曲家)・ヨハン・シュトラウス1世・2世・3世(オーストリアの作曲家一家/イヴァン・オシム(ボスニアヘルツェゴビナ出身のサッカー監督、イビチャ・オシムの本名)、イワンのばか(ロシアの民話)

★英語名・ピーター(Peter)は、使徒ペトロ(Petro)の名(前名はシモン)に由来する。

◆Peter(ピーター) 英語/Pedro(ペドロ) スペイン語・ポルトガル語/Pietro (ピエトロ)イタリア語/Pierre(ピエール)フランス語/Peter(ペーター)ドイツ語・オランダ語/Пётр( Pyotrピョートル)ロシア語※ピーターに、ギリシヤ神話に登場するいたずら好きの牧神「Pan(パン)」を加えたのが「Peter Pan(ピーター・パン)」。

◇俳優・著名人の名前:ピーター・ゼルキン(ピアニスト)、ピーター・オトゥール(俳優)/ペドロ・エリエセル・ロドリゲス・レデスマ(スペイン出身サッカー選手)/サン・ピエトロ大聖堂(ヴァチカン市国にあるカトリックの聖地)/ピエール=オーギュスト・ルノワール(画家)、ピエール・カルダン(ファッションデザイナー)、/ピョートル一世(帝政ロシア皇帝、大帝とも呼ばれる)

★英語名・ポール(Paul)は、使徒パウロ(Paulo)の名に由来する。

◆Paul(ポール) 英語・フランス語/Pablo(パブロ) スペイン語/Paulo(パウロ)ポルトガル語/Paul(パウル)ドイツ語/Paolo(パオロ)イタリア語

◇俳優・著名人の名前:パウロ(ポール)・遠藤周作/ジェームズ・ポール・マッカートニー(ビートルズ)、ポール・モーリア(ピアニスト)/パブロ・ルイス・ピカソ(画家)/ジョバンニ・パオロ・パンニーニ(イタリアの画家、建築家)

ちなみに、アメリカ西海岸の地名、サンフランシスコ(San Francisco)は「聖フランシス」、ロサンゼルス(Los Angeles)は「天使たち」を意味するスペイン語が語源。Losは英語のTheに相当する定冠詞である。

【プロフィール】
 原山 建郎(はらやま たつろう)
 出版ジャーナリスト・武蔵野大学仏教文化研究所研究員・日本東方医学会学術委員

 1946年長野県生まれ。1968年早稲田大学第一商学部卒業後、㈱主婦の友社入社。『主婦の友』、『アイ』、『わたしの健康』等の雑誌記者としてキャリアを積み、1984~1990年まで『わたしの健康』(現在は『健康』)編集長。1996~1999年まで取締役(編集・制作担当)。2003年よりフリー・ジャーナリストとして、本格的な執筆・講演および出版プロデュース活動に入る。

 2016年3月まで、武蔵野大学文学部非常勤講師、文教大学情報学部非常勤講師。専門分野はコミュニケーション論、和語でとらえる仏教的身体論など。

 おもな著書に『からだのメッセージを聴く』(集英社文庫・2001年)、『「米百俵」の精神(こころ)』(主婦の友社・2001年)、『身心やわらか健康法』(光文社カッパブックス・2002年)、『最新・最強のサプリメント大事典』(昭文社・2004年)などがある。

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