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【マーケットアナリティクス】

2023年のゴム相場を見通す-景気減速で下振れリスク、世界経済減速が上値圧迫も高値水準を維持する見通し

連載 2023-01-10

マーケットエッジ株式会社代表取締役 小菅 努
 2023年の天然ゴム相場は、2022年の取引レンジ(1キロ=207.10~275.10円)に対して横ばい気味になるも、若干の下振れリスクを想定したい。2022年の高値更新の可能性は低下し、逆に200円割れの可能性が高まるものの値崩れには至らないだろう。

 世界経済の急減速が上値を圧迫する一方、中国経済の正常化圧力、供給制約の強さが下値を支える見通しであり、原油などの他コモディティ相場と同様に「需要リスク」と「供給リスク」のバランスが問われる中で不安定な値動きが続きやすい。

 年間高値は2022年比で横ばいから切り下げの方向性を想定しておく必要がある一方、低在庫環境の大幅な改善までは見込まれておらず、大きく値を崩すこともないだろう。2022年の円建てゴム相場を下支えした急激な円安に一服感が浮上していることもネガティブ材料になる見通しだが、為替環境は依然として不透明感が強く、年間を通じて円建てゴム相場の値動きを不安定化させよう。

世界経済は減速する

 2023年の天然ゴム市場における最大の焦点は、世界経済の減速圧力が需要の伸びをどこまで抑制するかになる。国際通貨基金(IMF)が2022年10月に公表した世界経済見通し(WEO)では、世界経済の成長率見通しについて2022年の3.2%が2023年は2.7%まで減速する見通しになっている。先進国は2022年の2.4%が2023年に1.1%まで減速して成長がほぼ止まる一方、新興国・途上国は2022年と2023年がともに3.7%の見通しになっている。2000年代以降だと、世界同時金融危機とパンデミックの発生した特殊な経済環境と除くと、最悪の成長環境が想定されている。

 高インフレと景気減速圧力の強さは、家計部門に対して特に大きな被害をもたらし続ける。ガソリン消費量や高速道路の走行距離などの輸送関連データを見る限り、自動車を使った移動や輸送は良好な見通しにあるとは言い難い。自動車生産のサプライチェーン改善に伴う新車生産・販売の復調傾向がタイヤ需要を下支えするが、中古車市場が急減速するなど、大幅な需要増は想定しづらい環境が続くことになる。

中国経済再開は上昇リスク

 明るい材料としては、中国経済の復調期待がある。新型コロナウイルスに対応するためのゼロコロナ政策が予想よりも早いペースで見直されており、中国経済の成長率見通しに対して上方修正圧力が目立つ。感染対策を緩めたことで、感染被害の拡大による混乱も報告されているが、2023年全体でみれば中国経済は下振れより上振れリスクの方が高いだろう。

 仮に中国経済の復調が想定よりもハイペースで実現すると、世界経済も先進国の落ち込みを新興国によってカバーすることで、大幅な成長鈍化を回避できる可能性があり、その際には天然ゴム相場に対しても上振れリスクが拡大する。

ラニーニャ現象は収束へ

 供給サイドでは、異常気象「ラニーニャ現象」が終了する見通しにあることはネガティブ。ラニーニャ現象収束後も気候変動問題が突発的な生産障害をもたらす可能性が高いものの、豪雨や洪水の発生リスクは軽減される方向性になろう。

 ただ、肥料価格の高騰、入手難は東南アジアでも農業セクター全体の生産性を低下させており、天然ゴムに関しても集荷量の大幅な伸びは想定できないだろう。農業部門の人手不足、各種コスト高の構造にも大きな変化は生じない見通しであり、供給制約の強さが維持されることが、ゴム相場の下落余地を限定する見通し。サプライチェーンの混乱も解消傾向にあるが、正常化には至らない見通し。

 大阪取引所の生ゴム指定倉庫在庫は、2022年11月末時点で4,649トンとなっている。パンデミック前の2019年11月末の1万1,569トンを大幅に下回っており、値崩れが求められる在庫環境にはない。

 不確実性が大きいのが、ドル/円相場の動向だ。2021年、2022年と2年連続で急激な円安圧力が発生したことが、円建てゴム相場を下支えしてきた。ただ、2023年は米国の利上げサイクルが終了に向かうことでドル安・円高圧力が強まると、円建てゴム相場のパフォーマンスは悪化することになる。

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