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連載コラム「つたえること・つたわるもの」⑪

「陰」の〈気を変える〉には、「陽」に〈着替える〉だけでよい。

連載 2017-02-28

出版ジャーナリスト 原山建郎

 前回のコラムで、「好かれる人物」は「明るい・笑顔・やさしい・思いやり」の持ち主で、あたたかい」の気(オーラ)を身にまとっている、また「嫌われる人物」は「自分勝手、わがまま、悪口・陰口、暗い・陰険・陰気」な傾向があり、つめたい(冷たい・暗い)「」の気を周囲に放っている、と書いたのだが、60~80歳代の高齢者のアンケートを読み返していたら、「嫌われる人物のイメージは、好かれる人物のイメージの正反対である」というメモを見つけた。たとえば、「好かれる人物」の反対語(対義語)は、明るい⇒暗い・陰気、笑顔⇒怒りっぽい、やさしい⇒意地悪、思いやり⇒自分勝手・わがまま、のようになる。

 つまり、「好かれる人物」は、明るい笑顔、やさしい思いやり、外に広がるオレンジ色のオーラで、相手を暖かく包み込むイメージなのに対して、「嫌われる人物」は、自分勝手でわがまま、意地悪で怒りっぽい、内に引きこもるダークグレー(暗灰色)のオーラが、相手を冷たく拒絶するイメージを漂わせている。

 大学の授業(コミュケーション論)のなかで、「〝好かれる人物〟になるコツはいたって簡単です。明るい・笑顔・やさしい・思いやりのある人間に変わるだけでいい」と話したところ、学生の一人から「ちっとも簡単じゃない。相手がよい人なら自分も変われるかもしれないが、いやな人だったらとても無理です。そんなの偽善でしょう」と抗議を受けた。そこで、二つのたとえ話をすることにした。

 一つ目は、「〈自分の顔〉は、何のためについているのか」という話である。

 最初に、「皆さんは自分の顔を、自分で見たことがありますか?」と質問した。「はい、鏡で見ています」と答えたので、「それは〈鏡に映った自分〉の顔です。自分の眼で直接見えるのは、鼻先と舌の先端、顔全体のほんの一部にすぎない。したがって、自分では見られない顔は、実は他人に見てもらうためについているのです」と話した。すると、「そんなの屁理屈です」という女子学生がいたので、「あなたは、なぜ外出前にお化粧をするのですか? 自分の眼では鼻先しか見えないのに……」と聞くと、「〈鏡に映った自分〉の顔を見て、お化粧や髪型をチェックします」と答えた。そこで、「それは、鏡に映った〈鏡に映った自分〉の顔を見ている〈もう一人の自分〉がOKを出す行為、つまり他人に見られてもよい及第点という判断であり、それは外出時の服装などの〈身だしなみ〉にも及ぶ」こと、また、「人間の心には、〈鏡に映った自分〉を見ている〈もう一人の自分(本物の自己)〉がいて、潜在意識のさらに奥底では〈嫌われる人物〉ではなく、もちろん〈好かれる人物〉でありたいと、つねに軌道修正をはかっている」ことについて話した。

 もう一つは、「陰」の〈気を変える〉には、「陽」の気に〈着替える〉だけでいい、という話である。

 東洋医学でいう「陰・陽」は、善悪二元的な概念ではない。温かい水は「陽」、冷たい水は「陰」、流れる水は「陽」、滞った(凍った)水は「陰」であるように、相手(周囲)に及ぼす〈はたらき&程度〉をいう。

 たとえば、明るく・やさしい「陽」のオーラ(気)は〈暖かい〉オレンジ色だが、嫉妬の感情が昂じると、相手を焼き尽くす〈熱い〉真っ赤なオーラがメラメラ立ち昇る。また、良好なコミュニケーションを拒む〈冷たい〉ダークグレー(暗灰色)のオーラは願い下げだが、興奮のあまり頭に血が上った相手に鎮静(クールダウン)をうながす〈爽やかな〉水色のオーラなら、ときによい効果を発揮する。つまり、そのシーン(状況)に求められる「陰」、または「陽」の〈はたらき&程度〉を身にまとうことが重要なのである。

 トイレ掃除(「陰」のシーン)を頼まれたときに、黒いTシャツに藍色のジーパンなら「いいわよ。任しといて」と言えるが、結婚披露宴(「陽」のシーン)に出席するパーティードレスだったら「いやよ。勘弁して」となる。「陰」の黒いTシャツに藍色のジーパンで、「陽」の結婚披露宴に出席する気にはなれない。

 したがって、「嫌われる人物」の周囲に漂う「陰」の〈気を変える〉には、「好かれる人物」が身にまとっている「陽」の気に〈着替える〉だけでよいのだ。この日の授業では、学生たちに「性格はなかなか変えられないが、行動はすぐに変えられる」のひと言を追加した。

 私たちは「好かれる人物」キャラを演ずる大物俳優、舞台は「嫌われる人物」も登場するビジネスシーン、さて今日の舞台では「明るい・笑顔・やさしい・思いやり」のうち、どのオーラ(気)に着替えようか!

【プロフィール】
 原山 建郎(はらやま たつろう) 
 出版ジャーナリスト・武蔵野大学仏教文化研究所研究員・日本東方医学会学術委員

 1946年長野県生まれ。1968年早稲田大学第一商学部卒業後、㈱主婦の友社入社。『主婦の友』、『アイ』、『わたしの健康』等の雑誌記者としてキャリアを積み、1984~1990年まで『わたしの健康』(現在は『健康』)編集長。1996~1999年まで取締役(編集・制作担当)。2003年よりフリー・ジャーナリストとして、本格的な執筆・講演および出版プロデュース活動に入る。

 2016年3月まで、武蔵野大学文学部非常勤講師、文教大学情報学部非常勤講師。専門分野はコミュニケーション論、和語でとらえる仏教的身体論など。

 おもな著書に『からだのメッセージを聴く』(集英社文庫・2001年)、『「米百俵」の精神(こころ)』(主婦の友社・2001年)、『身心やわらか健康法』(光文社カッパブックス・2002年)、『最新・最強のサプリメント大事典』(昭文社・2004年)などがある。

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