連載「つたえること・つたわるもの」(109)
〈伝わりにくい〉を、わかりやすく〈伝える〉――その1
連載 2021-03-23
さらに、「もう一歩踏み込んで:類型B―(2) 」の中から、「抗体」と「治験」の説明を見てみよう。
☆「抗体」 まずこれだけは→細菌やウイルスと戦い、からだを守ってくれる、人間のからだの中で作られる物質。/少しくわしく→「からだに入ってくる細菌やウイルスに抵抗して、毒を出さないようにしたり、感染するのを防いだりする物質です」/時間をかけてじっくりと→「人のからだには,細菌やウイルスなどが入ってくると、これに抵抗してからだを守ろうとする働きがあります。このときに働く物質のことを『抗体』と言います。細菌やウイルスが悪い働きをしないようにするタンパク質の一種です」/ここに注意→抗体をY字形などそれぞれの種類に対応した図で表し、免疫反応を視覚化すると分かりやすい。身近に利用が可能な分かりやすい模式図があれば、これを利用するのもよい。
☆「治験」 まずこれだけは→新薬の開発のための人での試験。/少しくわしく→「新しい薬を開発するために、人で効果や安全性を調べる試験のことです。動物実験などで効果や安全性が確かめられたものについて、人での試験に進みます」/時間をかけてじっくりと→「新しい薬を開発するために、人での治療の効果や安全性を調べる試験のことです。製薬会社が開発する新しい薬は、厚生労働省の承認が必要です。この承認を受けるために行われるのが『治験(ちけん)』です。動物実験などで効果や安全性が確かめられたものについて、人での試験に進みます。『治験』は、『治療の試験』という意味です」
もう一つ、「混同を避けて:類型B―(3) 」の中から、「アナフィラキシーショック」の関連用語である「ショック」の説明を見てみよう。
☆「ショック」 まずこれだけは→血圧が下がり、生命の危険がある状態。/少しくわしく→「血液の循環がうまくいかず,細胞に酸素が行きにくくなった状態です。生命の危険があるので、緊急に治療が必要です」/時間をかけてじっくりと→「血液の循環がうまくいかなくなって、脳や臓器などが酸素不足におちいり、生命にかかわる大変に危険な状態です。緊急に治療する必要があります。血圧が下がる、顔面が真っ白になる、脈が弱くなる、意識がうすれるなどの症状が現れます」
※「アナフィラキシーショック」→「特定の物質がからだの中に入ることによって全身に過剰なアレルギー反応が起こり、短時間で急激に血液の循環がうまくいかなくなり、生命に危険が及ぶ状態になることです。スズメバチに刺された場合や、特定の薬剤を注射された場合などに起こります」/注意点→「アナフィラキシー」という言葉は、一般の人には非常に分かりにくいので,使わないようにしたい。例えば「特に症状が強い」などの表現で緊急性を示し、生命に危険が及ぶ状態であることをまず伝えた上で、その仕組みを説明したい。
もとより医療者が日常的に用いる医学や医療の専門用語の意味が、医学的知識にうとい患者に〈伝わりにくい〉のは当たり前のことである。医療者には問診や患者の病状を説明するときに、【「病院の言葉」を分かりやすくする提案】のような、わかりやすく〈伝える〉を心がけてほしい。新型コロナウイルスを「正しく恐れる」ためにも、「〈伝わりにくい〉を、わかりやすく〈伝える〉」サポートをお願いしたい。
【プロフィール】
原山 建郎(はらやま たつろう)
出版ジャーナリスト・武蔵野大学仏教文化研究所研究員・日本東方医学会学術委員
1946年長野県生まれ。1968年早稲田大学第一商学部卒業後、㈱主婦の友社入社。『主婦の友』、『アイ』、『わたしの健康』等の雑誌記者としてキャリアを積み、1984~1990年まで『わたしの健康』(現在は『健康』)編集長。1996~1999年まで取締役(編集・制作担当)。2003年よりフリー・ジャーナリストとして、本格的な執筆・講演および出版プロデュース活動に入る。
2016年3月まで、武蔵野大学文学部非常勤講師、文教大学情報学部非常勤講師。専門分野はコミュニケーション論、和語でとらえる仏教的身体論など。
おもな著書に『からだのメッセージを聴く』(集英社文庫・2001年)、『「米百俵」の精神(こころ)』(主婦の友社・2001年)、『身心やわらか健康法』(光文社カッパブックス・2002年)、『最新・最強のサプリメント大事典』(昭文社・2004年)などがある。
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