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連載「つたえること・つたわるもの」(99)

挫折を支えたひと言――「ずっと、書きつづけてくださいね」

連載 2020-10-13

出版ジャーナリスト 原山建郎
 今秋予定していた大学3年生対象の「最強のエントリーシート対策講座」(文教大学越谷校舎)が、今般のコロナ禍の影響で中止となった。そこで、すでに用意してあったメイン資料、ワークシートを自習式に改編したものを希望者に提供することになり、100名を超える学生からリクエストがあった。

 今回は「リモート方式」の講義・演習もできないので、ワークシートをもとに各自が学べる自習式の講座資料を作成した。マトリクスに記入するワークシートには、次の5種類を用意した。

 ①「自己理解(本当の自分を好きになる)」のためのワークシート
 ②「大学生の私(大学生になって成長したこと)」を点検するワークシート
 ③「大学生活(ゼミ・卒論のテーマ、サークル・部活動、アルバイト)」を点検するワークシート
 ④「過去の経験(エピソードの宝庫)」を編集するワークシート
 ⑤「志望動機(担当したい仕事)」「社会人力(コミュニケーションスキル)」を伝えるワークシート

 企業が「履歴書・自己紹介書」や「エントリーシート」を提出させるおもな理由は、まず書類選考を行うための資料、次に面接時の机上資料として活用するためである。また、履歴書・自己紹介書、エントリーシート、論・作文を書かせるのは、文章の巧拙(誤字・脱字・嘘字・当て字・略字は論外)ではなく、就職を希望する学生が「何を考えているのか」を知るためである。なかでも、とくに次の3点に注目している。

 ①「伝えたいこと」が、明確になっているか(企業側の質問を正しく理解しているか)。
 ②「伝える努力」をしているか(不得意なテーマでも、あきらめない粘り強さはあるか)。
 ③この学生の問題意識(自分の意見、切り口、提案)はどこにあるか。

 採用担当者に「ぜひ、この学生に面接で会ってみたい」と思わせるエントリーシートを作成し、どこまでも「記憶」に残る「自己PR・志望動機」をアピールするポイントは、すでに「【あるもの】で勝負する」こと。それが自分に【あるもの(体験、信条)】なら、どんな質問にも答えられるが、【ないもの】の羅列は必ずボロが出る。就活で勝負すべき【あるもの】とは、「すでに【自分の中に】あるもの」のことである。

 ①自分のパーソナリティ形成に影響を与えた人、その理由。
 ②パーソナリティ形成に影響を与えたできごと。
 ③これが自分の強みだと思うようになったできごと。
 ④自分の意志でやり始めたこと、今でもずっと続けていること。
 ⑤失敗を乗り越えた体験、自分を大きくしたチャレンジ体験。

 つまり、「すでに【自分の中に】・【あるもの】」に気づく作業こそが、〈自己理解〉の目的なのである。そして、大学生である自分が、ほんとうに「伝えるべきこと」は、次の3つの中にある。

 ①(これまでとは)大きく変わったこと(は何か)。
 ②(これまで)ずっと続けてきてよかったこと(は何か)。
 ③(大学生になって初めて)いま、わかったこと(は何か)。

 ところで、これは大学三年の就活生だけではなく、いま実社会で働く「仕事人」の大人にもあてはまる設問である。「大学生・学生生活」のところを「仕事人・仕事生活」と読み替えながら、企業や団体の役員・スタッフ、あるいはフリー(個人事業主)で働く「仕事人」にとって、「すでに【自分の中に】・【あるもの】」とは何であるのか、そのことを私たちはもう一度問い直してみる必要がある。

 私たち人間の死亡率は100パーセントである。この世に「生」を享けた者はいつか必ず「死」を迎える。しかし、もう一つ「死ぬまでは、必ず生きている」こともまた、万人に共通する真実である。「死ぬまでは、生きている」のであれば、「死ぬまで、どう生きるか」という大命題がある。私たちの「ライフワーク」における、最大のミッション(使命)は「いまを一所懸命に生きる」ことだろう。

 実社会で働く人のワーク(仕事)は、およそ次の3つに分類できる。

 ①ライスワーク(Rice-Work)、②ライクワーク(Like-Work)、③ライフワーク(Life-Work)。

 つまり、①日々の糧(Rice)を得るための「生活(ライス)」、②好き(Like)だから続ける「仕事(ライク)」、③いのち(Life)が震え・感動する「はたらき方(ライフ)」である。最初のきっかけはライスやライクであっても、一所懸命に取り組んでいけば、必ずライフワークに出会う日がやってくる、というのだ。ちなみに「ライフワーク」を辞書で引くと、「天職。作家や研究者、表現者などが、生涯の仕事として人生を捧げたテーマのこと」と出ている。もっと、私たち一般庶民にも手が届くような「ライフワーク」のとらえ方はないものだろうか。いや、必ずあるに違いない。たとえば……。

 私は大学卒業と同時に入社した老舗出版社で、女性誌編集部に配属されたとき、これが天職、一生の仕事、ライフワークだと思った。とにかく編集の仕事はオモシロかった。50歳で取締役になったが、新しい社長と意見が合わず、56歳のとき、あと先も考えずにフリーになった。ハローワークにも何回か通ったが、よい仕事には出会えない。これで私のライフワークは志半ばにして断たれたのかと、大きな挫折感に襲われた。

 その私を支えてくれたのは、芥川賞作家・古山高麗雄さんの「いつまでも、書き続けてくださいね」というひと言だった。

 1993年に初めて上梓した拙著『からだのメッセージを聴く』を一読された古山さんは、私を日本文藝家協会会員に推薦したいとおっしゃった。まだ1冊目ですからと尻込みする私に、「あなたにはもっと書くべきテーマがある。ずっと、書きつづけてくださいね」と、その柔和なまなざしに力をこめた。

 運のよいことに、武蔵野女子大学(現武蔵野大学)の外部講師を皮切りに、いくつかの大学での教員生活を、70歳の定年を迎えるまで足かけ15年続けることができた。その15年の間に、出版社に在籍していた34年間の何十倍もの得難い経験を積むことができた。その後は、社会人向けの教養講座、あだち区民大学塾、うらやす市民大学などの講師を担当しながら、いまもなお本コラムを書きつづけている。

 22歳で女性誌の記事を「ライクワーク」と「ライスワーク」で書き始めた原山青年は、やがて75歳を迎える老青年となったいまも、53年間ずっと書きつづける「ライフワーク」のただなかにいる。

 堅苦しい仕事をカタカナで「シゴト」と洒落のめした、『就職ジャーナル』元編集長・楢木望さんの【「こんな目に遭う」のがシゴト】と題したオモシロイ一文を紹介しよう。ややもすると、ライク(好き)とディスライク(嫌い)で判断しがちな「シゴト」を、ライフ(人生)の視点で見直す切り口である。

 面白いシゴトなんて、世の中にはない。
 逆に、ツマラナイと決まっているシゴトもない。
 あるのは、シゴトを面白くする能力と、シゴトをツマラナイものにしてしまう錯覚だ。
 どんなシゴトにも、問題はつきまとう。
 問題とは、現状と目標とのギャップである。
  出典:『ビジネスパーソン計画』(現在はweb上にない)

【プロフィール】
 原山 建郎(はらやま たつろう)
 出版ジャーナリスト・武蔵野大学仏教文化研究所研究員・日本東方医学会学術委員

 1946年長野県生まれ。1968年早稲田大学第一商学部卒業後、㈱主婦の友社入社。『主婦の友』、『アイ』、『わたしの健康』等の雑誌記者としてキャリアを積み、1984~1990年まで『わたしの健康』(現在は『健康』)編集長。1996~1999年まで取締役(編集・制作担当)。2003年よりフリー・ジャーナリストとして、本格的な執筆・講演および出版プロデュース活動に入る。

 2016年3月まで、武蔵野大学文学部非常勤講師、文教大学情報学部非常勤講師。専門分野はコミュニケーション論、和語でとらえる仏教的身体論など。

 おもな著書に『からだのメッセージを聴く』(集英社文庫・2001年)、『「米百俵」の精神(こころ)』(主婦の友社・2001年)、『身心やわらか健康法』(光文社カッパブックス・2002年)、『最新・最強のサプリメント大事典』(昭文社・2004年)などがある。

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