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連載コラム「つたえること・つたわるもの」⑥

ラベリング、安全確認、優先順位、相手意識をもつ。

連載 2016-12-13

出版ジャーナリスト 原山建郎

 先月末、文教大学の面接対策合宿があり、集団討論・集団面接・個別面接などの模擬面接官を務めた。

 たとえば、集団面接では4~6名の学生に同じ質問をして、その答え方や内容から「プロとして働く社会人」の適性をさぐるのだが、すでに実社会で働くビジネス・パーソンにも考えてほしい内容である。

●質問1:あなたは航空会社に勤務するCA(客室乗務員)です。成田国際空港から離陸したジェット機が水平飛行に移ったので、ワゴンサービスのために客室を回り始めました。すると、一人のお婆さまが「寒いから、エアコンを止めて頂戴」とおっしゃいました。さあ、どう対応しますか?

 「エアコンを止めます」「ほかの座席に移ってもらいます」という答えがあり、その理由を尋ねると「お客さまのご要望に応えるのが、サービスの基本です」と言う。ほかの学生から「エアコンを止めると、ほかのお客さまにご迷惑がかかる」「どこの座席でも室温は同じ」という意見が出て、それではどうするのかと尋ねると「温かいお飲み物を差し上げます」「ブランケット(毛布)をお持ちします」などの答えがあった。

「さて、そのお客さまがなぜ寒いと訴えたかを確かめましたか? たとえば重篤な持病の副作用、あるいはサーズ(重症急性呼吸器症候群)やマーズ(中東呼吸器症候群)のせいで、寒気を感じているのかもしれない。CAであるあなたは、まず『どうなさいましたか?』とお尋ねする必要があります。体調が芳しくなければ、機内放送で「ドクターか看護師など、医療職のお客さまはおられませんか?」と呼び出して、お客さまの体調がかなり悪いときは、Uターンして成田国際空港まで引き返す事態だってあり得るでしょう」

 これはラベリング(先入観や推測で相手を判断)といって、「もし自分なら、温かい飲み物・毛布をほしいと思うから」という思い込みがある。もちろん、乗客(相手)はCA(自分)とは別の人格なので、相手がして欲しいことを理解するには、まず『どうなさいましたか?』と質問する、すべてはそこから始まる。

●質問2:あなたは文教大学湘南校舎に勤務する職員です。学生の母親から電話が入りました。「文教大学湘南校舎に伺いたいのですが、どうやって行けばいいですか?」 さあ、どう対応しますか?

 ほとんどの学生が、「JR茅ヶ崎駅北口から文教大学行バスで25分ほどです」「小田急線湘南台駅西口から文教大学行バスで約30分かかります」などと答えた。「東京駅からJR東海道線で茅ヶ崎駅までは1時間」とつけ加える学生もあったが、すべて文教大学湘南校舎から一方的に発信したメッセージになっている。もちろん、それも正解の一つだが、どれも「自分から相手に線を引いた」ことに問題がありそうだ。

「大学の職員であり、交通アクセスを熟知しているあなたは、相手(学生の母親)が『大学のホームページにあるJRや小田急線の最寄り駅から、具体的な順路や所要時間を知りたいのだろう』と思い込み、丁寧で詳細な情報を伝えようとしました。しかし、その母親はいま、どこから電話をかけているのでしょう。電話の主は、まだ北海道の自宅かも知れないし、羽田空港に到着したところか、茅ヶ崎駅の南口付近で迷っているかもしれません。そこで、まず『いま、どちらにいらっしゃいますか?』とお尋ねする必要があります」

 つまり、「自分から相手に線を引く」のではなく「相手から自分に線を引く」べし。まず「どんな情報がほしいのか、相手はどんな状況にあるのか」を確認する、それがこのケースに求められる最優先事項なのである。学生たちに、セブン&アイホールディングス前会長・鈴木敏文氏の名言を(注釈つき)で紹介した。

「顧客のために(先入観や思い込みを排し)ではなく、顧客の立場(相手意識を持つ)で考える。」

●質問3:あなたは保育園に勤務する保育士です。「太郎くんが頭を叩いて、花子ちゃんが泣いてます」と園児から通報があり、急いで保育室に駆けつけると、困った表情をした太郎くんのそばで、花子ちゃんがしくしく泣いています。さあ、保育士であるあなたは、どのように対応しますか?

 これは十数年前、武蔵野女子大学(現・武蔵野大学)の面接対策合宿で、保育園への就職(保育士)を志望する女子学生グループの模擬集団面接で、いちばんに発したウォームアップを兼ねた質問である。

 どの学生も「太郎くんと花子ちゃん、それぞれになぜ叩いたか、なぜ泣いているのか、その理由を聞きます」「どんな理由でも暴力はいけない、花子ちゃんに謝るように諭します。太郎くんがきちんと謝ったら、花子ちゃんにも許してあげるように言います」などと、まるで優等生の答案のような教育論を披瀝した。

「幼児保育の現場で、最優先事項は〈安全〉です。『花子ちゃん、怪我したところはない?』と身体に異常はないかを確認すること。また、保育士(大人)の目には〈太郎が花子を叩いた〉と映る事件ですが、もしかすると花子と遊びたかった太郎がひじ鉄をくらって、思わず頭を叩いた、のかもしれませんね」

 安全確認のあとで、『ドラえもん』の〈ジャイアン〉と〈しずかちゃん〉を、もう一度読み直してみよう。

☆NHKラジオ第二放送(AM)「宗教の時間」出演のご案内
 来る12月18日(日)朝8:30~9:00放送、12月25日(日)夜6:30~7:00再放送予定のNHKラジオ第二放送の番組、「宗教の時間」(「神は愛の行為しかなさらない~遠藤周作・心あたたかな医療」)に、遠藤ボランティアグループ代表・原山建郎が出演し、34年前に遠藤周作さんが提唱して始まった「心あたたかな医療」キャンペーンが、2016年のいま、日本の病院は患者にどのような医療を提供しているか、日本に「良医」は増えているかなどの検証レポート、また、遠藤さんが書きたかった『私のヨブ記』についても私見を述べます。

【プロフィール】
 原山 建郎(はらやま たつろう) 
 出版ジャーナリスト・武蔵野大学仏教文化研究所研究員・日本東方医学会学術委員

 1946年長野県生まれ。1968年早稲田大学第一商学部卒業後、㈱主婦の友社入社。『主婦の友』、『アイ』、『わたしの健康』等の雑誌記者としてキャリアを積み、1984~1990年まで『わたしの健康』(現在は『健康』)編集長。1996~1999年まで取締役(編集・制作担当)。2003年よりフリー・ジャーナリストとして、本格的な執筆・講演および出版プロデュース活動に入る。

 2016年3月まで、武蔵野大学文学部非常勤講師、文教大学情報学部非常勤講師。専門分野はコミュニケーション論、和語でとらえる仏教的身体論など。

 おもな著書に『からだのメッセージを聴く』(集英社文庫・2001年)、『「米百俵」の精神(こころ)』(主婦の友社・2001年)、『身心やわらか健康法』(光文社カッパブックス・2002年)、『最新・最強のサプリメント大事典』(昭文社・2004年)などがある。

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