加藤事務所代表取締役社長 加藤進一

 フィジカルAI、AIロボットという言葉を、最近ニュースでよく耳にします。特に中国では、AIロボットによる陸上競技会が開かれ、二足歩行のロボットが100メートル走で人間を上回る速さを記録した、というニュースを見た方も多いのではないでしょうか。ゴム産業にも、AIロボットが登場するのでしょうか。

 中国・上海で2026年9月に開催されたゴム技術展示会「RubberTech China 2026」の会場で、ついにAIロボットが登場しました。もっとも、ゴム工場の生産ラインで働くロボットではありません。出展ブースを案内するロボットです。

 中国のゴム材料会社のブース前で、「このブースでは、こんな材料を紹介しています。ぜひご覧ください」と、通路を行き交う人々に声を掛けていたそうです。

 テレビなどでよく見る、人型のフィジカルAIロボットです。二本足で立ち、歩きながら来場者に案内をしていました。来場者の注目を集めていたそうです。私は毎年、世界各地のゴム技術展示会に参加し、ゴム産業やゴム技術の動向、新しい技術を探っています。そうした中でも、ゴム展示会にAIロボットが実際に登場したのは、今回が初めてではないかと思います。

 数年前から、AIを使ってゴムの配合を設計できるのか、ゴムの試験結果を予測できるのか、試験回数を減らせるのか、といった議論が行われてきました。タイヤの配合設計については、AIを活用する取り組みが進み、タイヤ会社では実際に設計への活用が始まっています。

 一方、フィジカルAIロボットが生産ラインに入り、生産現場の効率化や人手不足の解消に貢献するようになれば理想的ですが、日本ではまだ本格的な導入には至っていません。

 ロボットに単純作業を代行させる取り組みは、すでに始まっています。私の会社でも、そのようなロボットの販売を始めています。ただし、人型ロボットの導入は、まだこれからです。

 カメラを「目」として周囲を認識し、状況を判断しながら手を使って作業できる人型ロボットが実用化されれば、対応できる作業の幅は大きく広がるでしょう。例えば、射出成形機の金型から成形済みのゴム製品を取り出す作業や、ゴム成形品にバリが残っていないかを目視で検査する作業が考えられます。

 ほかにも、ゴム練り用の薬品を計量するため、スコップで箱から材料をすくう作業、重さ25㎏のブロックを練り機の手前にあるコンベヤーへ載せる作業、バッチオフマシンの最終工程でリボンを所定の箱にきちんと入れる作業などがあります。

 これらは現在、人が判断し、手を動かして行っている作業です。単純に見えても、状況に応じた判断や細かな動作が必要なため、簡単には自動化できません。こうした作業を人型AIロボットが担えるようになれば、ゴム工場の生産現場は大きく変わるかもしれません。

 欧州の大手ゴム機械メーカーでは、AIを活用してゴムの練り条件や押出条件を最適化する機械の提供が始まっています。運転データなどが蓄積されていることが、こうした最適化を可能にしているのでしょう。先日、私が参加した日本ゴム機械懇話会でも、この件が話題になりました。

 今回のRubberTech China 2026では、812のブースが出展し、来場者は約4万人だったとのことです。以下の写真のとおりです。一方、今年は昨年に比べて来場者がやや少なかった、という声も多く聞かれたそうです。中国経済の足踏みが影響しているのでしょうか。

 中国のゴム産業も、成長の踊り場に差し掛かっているのかもしれません。中国国内で余ったゴム材料が、アジアや日本に安値で売り込まれているのではないか、という声も聞かれます。9月に参加した日本のカーボンブラック協会の年次大会でも、同様の話題が出ていました。

 今後は、ゴム業界でのフィジカルAIロボットの活用が期待されています。中国ではすでにそれが始まっているかもしれません。