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連載「つたえること・つたわるもの」159

就活は「自分が生涯をかけて何をやりたいのか」を十分に思い定めること。

連載 2023-04-25

出版ジャーナリスト 原山建郎

 先週(4月20日)、文教大学の3年生(越谷・湘南・東京あだちキャンパス共通)の就職活動を支援する「最強のエントリーシート講座」についてガイダンス(約40分)を収録した。4年前までは越谷キャンパスのみの開講で、3年生の受講希望者を大きな階段教室に集めて、対面授業形式でのガイダンスを行った。

 しかし、3年前、コロナ禍のために対面講座が中止となり、オンラインでの「最強のエントリーシート講座(全5回)」に切り替えた。1コマ90分の講義を月曜日にZoomで録画して、2日後の水曜日にオンライン受講する学生に録画された講義を配信する形式となったので、越谷(埼玉県)以外の湘南(神奈川県)・東京あだち(東京都)キャンパスの学生も受講できるようになった。

 対面授業形式では決められた時間、指定された教室で講座を受けるわけだが、録画された講座を視聴するのは、各学生が都合のよい日時にパソコンに向えばよいので、コロナ禍が少し落ち着いた今年度(2023年春学期)も引き続き、オンラインでの講座運営となった。Zoom会議方式をとれば、リアルタイムでチャット質問が受けられるが、学生のオンライン受講の利便性を考慮して、講座を運営する地域連携センター事務局経由でメールの質問を受けとって、翌週の講座(事前録画)冒頭に、質問に対する回答と解説を行うことにした。教える側である私の本音をいうと、対面方式(教室での講座)なら、学生のリアルタイムの反応を見ながら、あるいはさまざまな質問に答えつつ、配布資料にない事柄にもふれることができるのだが……。

 さて、ガイダンス冒頭で、いま話題の〈チャットGPT〉にふれながら、およそ次のような話をした。
「今回、5回にわたって受講していただく〈最強のエントリーシート〉書き方講座の狙いは、皆さんが志望する企業・団体に提出する〈最強のエントリーシート〉の書き方を学んで、みごと〈内定〉を手に入れることです。採用担当者の心にしっかり届く〈最強のエントリーシート〉を書くためには、何よりも、いま大学生である皆さんの〈私らしさ〉〈社会人力〉を伝える〈自己PR〉のポイントと、なぜ、その企業や団体で働きたいのか、あなたの〈熱意〉と〈決意〉を伝える〈志望動機〉を明確にすることが求められます。

 ところで、いま話題になっている〈チャットGPT〉という〈文章生成言語モデル〉サービスを使えば、〈最強のエントリーシート〉が作成できると思っている人はいませんか? いま大学生である皆さんの〈私らしさ〉〈社会人力〉を伝える、あなたの〈熱意〉と〈決意〉を伝えるエントリーシートの文章を、人工知能を用いた〈チャットGPT〉にお願いすれば、いわゆる〈模範回答〉のような文章を作成できるかもしれません。しかし、本当の〈あなたらしさ〉〈マイ・オピニオン〉は、人工知能からは出てきません。この講座で、あなた自身が〈本当の自分〉と向き合い、語りかけながら、それを〈見える化=文章化〉してください」

 昨年11月の発表以来、世界で話題となっている「チャットGPT」は、米国のオープン・エイアイ(Open AI)社が開発した対話型の人工知能(AI:Artificial Intelligence)を用いたチャットサービスのことである。
チャット(Chat)は、コンピューターネットワーク上で、二人以上の相手とリアルタイムで、短いメッセージをやり取りすることで、Web上のZoom会議・ビデオ収録などでよく使われるシステムやサービスをいう。

 また、GPT 【Generative=(文章を)作成する+Pre-trained=事前学習された+Transformer=変換器】は、Web上の大量のデータをもとに学習する【文章生成言語モデル】で、ネット上の膨大な数の文章を学習し、どんな質問にもすぐに回答してくれ、登録すれば誰でも無料で使える(※有料版もある)という。

 たとえば、私たちが使っているワード文書作成ソフトで、キーボードに「熱意と決意を」と入力し、続いて「つたえ」とひらがなで入力すると、「つたえ/伝え/伝えて/伝える/伝えたいこと」などの予測変換候補が出てくる。やはり、ひらがなで「おなかが」と入力すると、「おなかが/お腹が/お腹が空いて/お腹が空いた/お腹が痛い」などの予測変換候補が出てくる。これは、実際に使用された文字変換のパターンから学習した日本語の言語モデルをもとに、変換予測の確率から弾き出した複数の答え(予測変換)である。

 この際、誤解をおそれずに言えば、〈予測変換〉のさらにその上の超ビッグデータを読み込んで、ユーザーの要望に沿って編集する〈チャットGPT〉は、いわゆる〈模範回答〉を提供するシステムである。Web上には〈チャットGPT〉で自分のプロフィール作成を依頼した文章が、期待に反して間違いだらけだったという「トンデモ体験」が紹介されている。Web上には正確な情報だけでなく、誤認(真偽のチェックミス)情報、フェイク(偽)情報もたくさんあるが、それを適切に取捨選択する編集力が、〈チャットGPT〉には備わっていないのではないか。そうであるとすれば、「オンリーワンの〈自分らしさ〉」が求められるエントリーシート(文章)作成に〈チャットGPT〉の助けを借りることは、絶対に勧めたくない選択肢である。

 〈最強のエントリーシート〉講座といえば、いまから20年ほど前、武蔵野女子大学(2003年に武蔵野大学に改称)で、私は「マスコミ就職対策講座」を担当していた。そのころの雑誌の発行部数は、たとえば週刊文春や週刊新潮は70万部台、週刊ポストや女性セブンは50万部台と勢いがあった時代で、大手出版各社のエントリーシートにも、「新聞ジャーナリズム、何するものぞ!」という気迫にあふれていた。

 たとえば、小学館の「雑誌編集」エントリーシート(2007年度社員採用応募要領)のパンフレットには、大きな「来たれ、世の中をひっくり返したい人¡¡」の文字が表紙に躍っている。これだけでも強烈なインパクトだが、中面見開きには「受験者への100の挑戦」というタイトルで、次のコメントが添えられている。

 「出版社で働く人間に必要なものは何か? 10人の出版人がいれば、10通りの答えが存在するであろう命題だ。そんな十人十色な意見の中から、100をピックアップしてみた。さて、あなたに当てはまるのは?

 「受験者への100の挑戦」では、大手出版社の雑誌編集者に求められる、「資質と覚悟」が問われている。その中から、ヒリヒリするような100項目の「挑戦」をいくつか書き出してみよう。

7.プレッシャーを楽しめるか9.叩かれても叩かれても屈しない覚悟があるか21.出すぎた杭になれるか28.覇気があるか30.執念深いか35.見栄っ張りか36.自分のケツをきちんとふけるか45.寝なくても平気か47.日々感動しているか53.多少鈍感なところもあるか56.「気合」と「覚悟」があるか60.権力からの圧力にも屈しないか61.「前例は破るためにある」と思うか65.敵を作ることを恐れないか74.コツコツと積み上げていく作業が嫌いではないか76.カラダは丈夫か81.映画をたくさん観ているか82.借りはきちんと返すか85.野心はあるか86.温かいか87.時代の風を察知できるか94.本をたくさん読んでいるか99.こういう時代だからこそ「チャンス」だと思うか

そして、「100.世の中をひっくり返したいか」のあとに、さらに、出版社の〈熱い問いかけ〉がある。

 あなたには、いくつ「ハイ」があっただろうか。もっとも、たくさん該当する項目があるから可、少ないから不可というつもりはないのだが。各問いかけに対して、自身の体験から具体的なエピソードを思い起こすことはできるだろうか? 自分には当てはまらない項目に対して、積極的にアプローチしていく姿勢を持てるだろうか? 「こんなに多くのことを求められるのか」と退くのではなく、「よーし、だったら挑戦してやろうじゃないか」と前向きになれるだろうか?

 私たちが求めているのは、そんなあなたです。

 小学館の課題作文(740字以上800字以内。横書き)も面白い。『大感激』(2007年)や『師』(2005年)もさまざまな視点、切り口で書けそうだが、『「相当マイってる」ヤツとその救済法を考える』(2003年)というテーマは、「相当参ってる奴」を「相当マイってる」ヤツと、漢字をカタカナ表記にしたあたりが、いかにも雑誌ジャーナリズムを牽引する大手出版社、小学館の面目躍如といったところだ。

 手許に保存してある、2004~2007年のエントリーシート資料から、課題作文のテーマを書き出してみる。『復活』(2007年度、白泉社、800字程度、横書き)、『◆あなたが「出版社で働きたい理由」と「入社後に実現させたい夢・目標」をテーマに900字以内で書いてください。◆オリジナルのタイトルを必ずつけてください』(2008年度、集英社、横書き)、『最近気になる日本の出来事』(2008年度、PHP総合研究所、600字以内、横書き)、『本を好きになったきっかけ』(2008年度、河出書房新社、600字以内、縦書きで書くこと)など、いずれも〈チャットGPT〉が作る〈模範回答〉の文章では、とても歯が立ちそうにない。

 ところで、6月第3週から始まる「最強のエントリーシート講座」では、学習院大学名誉教授で物理学者の木下是男さんの著書『理科系の作文技術』(中公新書、1981年)から、配布資料のサブテキストとして「パラグラフ・ライティング(欧米式の文章教育法)」を引用するのだが、先週のガイダンスではやはり木下さんの著書『日本語の思考法』(中公新書、2009年)から、「職業の選び方――第学生諸君へ」の一節を紹介し、これから就活を始める学生たちに贈る言葉、就活のキックオフとした。

 卒業後の生活設計の出発点は、自分が生涯をかけて何をやりたいのかを十分に思い定めることである。その選択のできていない人があれば、何をおいてもまずそれを考えぬくことを勧める。

 それがきまると、あと、道は二つに分かれる。一つはそのやりたいこと自体を職業とする行き方、もう一つは、そのやりたいことをやるための生計の手段として職業を選ぶ行き方である。たとえば、絵こそが生き甲斐という人にとっては、第一の行き方は、師匠につくなり美術学校にはいるなりして修業を積み、展覧会で認められて、プロの絵かきとして立つことだ。この人にとっての第二の行き方は、たとえばサラリーマンとして安定した生活をしながら日曜画家として絵をかきつづけることだろう。

 第一の道の門は狭く、幸いにその門をくぐれたとしても絶えず転落の危険が待ち伏せている。第二の道は、したいことをしたいだけすることができない欲求不満を抱いて歩くほかないが、坦々としている。どちらを選ぶかは、本人のこころばえ次第である。

(『日本語の思考法』「職業のえらび方」289~290ページ)

 令和の就活生には、3つの〈ちから〉がもとめられている。
★おもざし(適度の緊張感)―― 凛々しい表情で
★まなざし(伝える気持ち)―― 眼ぢからビーム
★こころざし(熱意と決意)―― 思いを届けるちから。

 もうひとつ、『「わかる」と「かわる」』ということばがある。
☆本当に「分かる(理解・納得する)」と、あなたの行動が「変わる」。
☆あなたの行動が「変わらなければ」、「わかった」とはいえない!

「それでは、6月のオンライン講座でお会いしましょう」

【プロフィール】
 原山 建郎(はらやま たつろう)
 出版ジャーナリスト・武蔵野大学仏教文化研究所研究員・日本東方医学会学術委員

 1946年長野県生まれ。1968年早稲田大学第一商学部卒業後、㈱主婦の友社入社。『主婦の友』、『アイ』、『わたしの健康』等の雑誌記者としてキャリアを積み、1984~1990年まで『わたしの健康』(現在は『健康』)編集長。1996~1999年まで取締役(編集・制作担当)。2003年よりフリー・ジャーナリストとして、本格的な執筆・講演および出版プロデュース活動に入る。

 2016年3月まで、武蔵野大学文学部非常勤講師、文教大学情報学部非常勤講師。専門分野はコミュニケーション論、和語でとらえる仏教的身体論など。

 おもな著書に『からだのメッセージを聴く』(集英社文庫・2001年)、『「米百俵」の精神(こころ)』(主婦の友社・2001年)、『身心やわらか健康法』(光文社カッパブックス・2002年)、『最新・最強のサプリメント大事典』(昭文社・2004年)などがある。

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