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連載「ゴムの科学と技術のはなし ~文系と理系をつなぐゴム入門講座~」3

第1章『最初にぜひ知っておきたいゴムの常識』(その2)

ラバーインダストリー 2021-09-04

今さら聞けない科学用語の話② “ジエン結合とは何か”

 表1の汎用ゴムはその主鎖(紐状の連結を構成する骨格鎖)中にジエン結合と呼ばれる2重結合が含まれており、このような2重結合があると他のラジカル状態の分子との反応が容易である。このため硫黄ラジカルとの反応である加硫に適しているが、一方、酸素ラジカルとの反応も容易で、汎用ゴムの劣化反応が激しいのはこのためである。

 分子と分子をつなぐ化学結合における1重結合(単結合)と2重結合(ジエン結合)の違いについては高校の有機化学を思い出していただきたい。もっとも、読者の中には化学の先生の顔とカメの甲(ベンゼン環)を思い出すだけで頭痛がするという御仁もおられるかとは思うが、ここは我慢のしどころですぞ。

 主鎖を構成する炭素原子(C)は“別々の方向”を向いた4つの化学結合用の手を持っており、他の4つの原子と強く結合する能力がある。例えば、図1(a)のメタン、エタンはその例であり、(―)で表示された結合手でH原子やC原子と強い結合(単結合)を形成している。これは言わば、お互いの原子が互いに手を出して強い握手をしている状態であり、このような強い結合をσ結合と呼び、安定な化合物を形成する。

 ところがエチレン、プロピレンなどには2重結合部が存在する(図1(b))。これはCの4つの結合手のうち2本の手はHと3本目の手も隣のCとσ結合で結ばれているが、4本目の手は本来の手の方向ではなく、無理して3本目の手と同じ方向で同じCと握手しているため、4本目の手は握手としては離れやすい弱い握りになっている。このような弱い握手(弱い結合)をπ結合と呼び、ここに外部からエネルギー状態の高い原子(ラジカル)が近づくとそれまでの弱い握手(π結合)を離し、近づいた原子との強い握手(σ結合)に切り替える。π結合は、ほれ、どこかの世界の誰かさんに似て浮気っぽいのである。

 2本線で表される2重結合は1本線の単結合より安定な結合に見えるという御仁は、図1(c)に示したようにπ結合を点線で表した2重結合(---)のように書く方が分かりやすいかもしれない。なおゴムの加硫反応、劣化反応については後のゴムの化学の稿で詳しくお話ししたい。

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【プロフィール】
 深堀 美英(ふかほり・よしひで)
 ロンドン大学クイーンメリーカレッジVisiting Academic Staff

 著書:『高分子の力学』(2000、技報堂)、『免震住宅のすすめ』(2005、講談社ブルーバックス)、『ゴムの弱さと強さの謎解き物語(初版)』(2011、ポスティコーポレーション)、『高分子の寿命と予測』(2013、技報堂)、『ゴムの弱さと強さの謎解き物語(第2版)』(2017、ポスティコーポレーション)、『ゴムの摩擦と摩耗の物理象』(2021、ポスティコーポレーション)

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