PAGE TOP

連載「ゴムの科学と技術のはなし ~文系と理系をつなぐゴム入門講座~」3

第1章『最初にぜひ知っておきたいゴムの常識』(その2)

ラバーインダストリー 2021-09-04

4 物性を基準とした天然ゴムと合成ゴムの棲み分け

 さて、生産量がいまだに天然ゴム(NR)が最も多いのは破壊特性を初め総合的な物性バランスが優れているからである。例えば、引張強度と破断伸び、耐屈曲疲労性などほとんどの大変形時の破壊特性が最も優れており、また、ゴム弾性体としての高い反発弾性(圧縮永久ひずみが小さい)や金属との接着性も非常に優れているため、タイヤを初めほとんどのゴム製品に幅広く用いられている。

 SBRはNRに比べて破壊特性はかなり劣るが、カーボンブラック充填によりNRと遜色ない程度に補強されること、またNRとのブレンド性も良いので幅広い領域で使用されている。さらに、最も低価格であることが生産量の多さを支えている。BRも大変形時の破壊特性はかなり劣るが小変形下の破壊特性が優れており、特に耐摩耗性が非常に優れているためにタイヤのトレッドゴムに多く用いられている。BRはNRやSBRとのブレンド性も優れている。

 以上の様な特性が汎用ゴム(Ⅰ)群が多用される理由であるが、その共通性は用いられている高分子主鎖がどれもジエン結合を持っていることにあり、これを硫黄架橋させることによって優れた破壊特性を生み出していることは先に述べた通りである。加えて、ジエン結合を持つ分子鎖はカーボンブラックの充填により破壊特性が大幅に改良されるという共通性がある。これは多分、反応性の高いカーボンラック表面と2重結合部との反応がカーボンブラック表面におけるカーボンゲル(バウンドラバー)形成を促進するからではないかと思われるが、このことは後の稿で詳しく取り扱いたい。

 ところがジエン結合を持つ高分子鎖のこれらの長所は、見方を変えれば、ジエン系高分子鎖は熱的に不安定で、オイルによって膨潤しやすく、また他の高エネルギー分子(ラジカル)とも容易に反応することを意味している。特に、酸素、紫外線、オゾンなどと容易に反応する。つまり汎用ゴム(Ⅰ)群の加硫ゴムは本質的に環境劣化性が大きいという弱点を持っている。

 そこで登場したのが主査にジエン結合を持つが、ジエン結合の比率が汎用ゴム(Ⅰ)群に比べるとかなり少ない汎用ゴム(Ⅱ)群であり、優れた耐候性、耐油性、耐熱性を示す。その中でブチルゴム(IIR)は気体透過性が小さいのでタイヤチューブに多用されている。その他、NBRは耐油性に、EPDMは耐候性に、またCRは難燃性に優れている。ただし汎用ゴム(Ⅱ)群のゴムは他のゴムとのブレンド性や接着性がよくない。

 汎用ゴム(Ⅱ)群よりさらに優れた耐候性、耐熱性、耐油性を示すのが、特殊ゴム(Ⅰ)群であり、主査にジエン結合を含まないのでプラスチック並みの特性を示す。フッ素ゴムは最も高価であるが最高の特性を示すため、自動車等において最も過酷な部位のシール部品やチューブに用いられている。シリコーンゴムは生体への影響が少ないためにバルーンカテーテルや歯科医療、美容整形にも多用されている。以上見てきたように天然ゴムを初め、各種の合成ゴムがその用途に応じて使い分けられている。さて次回はこれらのゴムがどのように成形加工されるかについて見てゆきたい。

(次ページ:『今さら聞けない科学用語の話② “ジエン結合とは何か”』)

人気連載

  • マーケット
  • ゴム業界の常識
  • とある市場の天然ゴム先物
  • つたえること・つたわるもの
  • ベルギー
  • 気になったので聞いてみた