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連載「ゴムの科学と技術のはなし ~文系と理系をつなぐゴム入門講座~」1

新連載講座の連載にあたり(ゴムの素晴らしさ,大切さを知るために)

ラバーインダストリー 2021-06-05

ロンドン大学クイーンメリーカレッジVisiting Academic Staff 深堀 美英

新連載講座開設の意図

 お陰様で約11年間続いた連載講座 “右脳で捉えるゴムのサイエンス”は昨年末で無事終了しました。この間のご愛読を心から感謝申し上げます。何しろ一般の教科書と異なり,筆者の独断と偏見に満ちたものであったため,迷惑された読者も多くおられたかと思いますが,平にご容赦下さい。そこでその深い反省(?)に基づき,今年度からは新しい視点に立ってゴムの話を進めてゆくことにしました。ゴムを支える科学と技術について,全くオーソドックスな取扱いで解説したいと思います。本誌の読者の方々にはどうぞ今後ともよろしくお付き合いの程をお願い申し上げます。

 さて,ゴムの世界に足を踏み入れた新人が最初に戸惑うのは,あまりにも多くの複雑な情報に遭遇するからであろう。同じ物つくりの業種であっても,金属やプラスチックを取り扱う企業に比べ,ゴムを取り扱う企業で働く人を取り巻く技術内容は実に多岐にわたる。一方にはゴムの物理や化学,その他の工学に関する情報が行き交い,他方では複雑な製造工程や様々なゴム製品群が溢れている。このため,筆者の最初の苦労経験に照らしても,一応は理系で学んできた新人技術者もどこから勉強を始めたらよいのか面食らってしまう。ましてや文系出身の人にはごちゃごちゃした情報を前にして勉強するという意欲もわかなくなるというのが実情であろう。

 言うまでもなく,どのような企業にも技術分野で働く理系出身者が半分いれば,技術とは関係ない管理,人事,庶務などに携わる文系出身者が半分いて,その中には社長,部,課長などの管理職から新入社員まで様々な人々が働いている。さらに,素材の受け入れ先や製品の収め先といった社外の人々も数多く関係してくる。したがって,もし,このような多岐にわたる企業環境の中で働く人々の間に共通の技術関連情報と知識がない場合,何かを話し合うにしてもその核心が何であるかを互いに理解することが難しく,討論の内容が全くちぐはぐなものになりかねない。

 今回,新しく始める連載講座はそのような企業の実情を踏まえ,頭に“文系と理系をつなぐ”とあるように,技術系,非技術系を問わず同じ企業で働く人々が様々な技術問題に共通の認識と知識を用いて互いに議論出来る場を提供することを目指すものである。一方,“入門講座”としたのは,取りあえず,これだけはぜひ知っておきたいゴムの科学と技術を選出し,そのエッセンスをお話しするためである。ただし少し詳しく勉強したい人のために必要に応じて文献を紹介したい。

 本講座でお話しする項目には,技術系にも非技術系にも重要で,かつ,ゴムの科学と技術の本質にかかわるものを選出したい。もしそれらの知識が職場全体に共通の技術概念,技術用語として定着することが出来れば,その企業に関わるすべての人が“実際の現場で起こる問題を正確に把握し,適切,迅速な対応が可能になる”と考えるからである。さらに,そのような職場環境や技術的土壌こそが企業に新たな技術的,事業的イノベーション(革新)をもたらす源泉になると考える。

 加えて,場合によっては読者の知的好奇心に応えてテーマを拡大したいと思っている。内容がかなり脱線することもある(これが筆者の本来の性癖?)かと思うが,それらを含めて,日頃はあまり縁のない科学や工学の世界を覗き見るのは理系出身にはもちろん,文系出身の人にとっても案外,心地よいことだと思うからである。本講座は,“出来る限りやさしく,簡潔に解説する”ことをモットーにして話を進めたい。“本質を直感的にわかる”ことが何より重要であり,そこから各自のイマジネーションも広がると考えるからである。

(次ページ:『ゴムの科学と技術とは何か』)

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