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連載「ゴムの科学と技術のはなし ~文系と理系をつなぐゴム入門講座~」1

新連載講座の連載にあたり(ゴムの素晴らしさ,大切さを知るために)

ラバーインダストリー 2021-06-05

ゴムの科学と技術とは何か

 昨夏,車の運転中にNHKのラジオ番組“子供科学電話相談”が流れていた。聞くともなしに聞いていると,小学校1年生くらいの子供がその道の先生にヘビのことを聞いていたが,そのうち先生がゴムで出来たヘビのおもちゃの話のついでに,“君はゴムって知っている?”と尋ねた。するとその子はすかさず,“知ってるよ,あのくにゃくにゃして,引っ張るとすごく伸びて,手を離すとパチンと戻るやつだよ,ゴムボールなんかよく跳ねるよ”とのたまう。とっさの場合,筆者はこの子供以上に答える自信がない。もちろん,変に小難しいことは知っているが,それを子供にもわかるように話せる自信がない。いやー,最近のがきんちょ(別名,お子様)は恐ろしい存在である。

 “ゴムとは何か”と聞かれたとき,その最大の特徴はこの子供が答えた通り,軟らかい,ぐにゃぐにゃしている(少々の力では壊れない),弾む(弾性がある),伸びる,伸びた後,すぐ戻る,であろう。さらに,少しゴムの勉強をした人は,ゴムは高分子材料である,架橋されている,物を掴みやすい(摩擦係数が高い),振動を防止する,などを加えるであろう。大雑把に言えば,これらの諸特性について,つまりゴムが材料として持っている本質的特性に物理的,化学的な理論的解析を与えるのが“ゴムの科学”である。一方,“ゴムの技術”とはゴムを工業材料,工業製品に仕上げるために施される様々な工学的手法のことである。

 言うまでもなくゴムが近代産業に不可欠な材料,製品であるのは,何はさておき,その“軟らかさと反発性弾性”にあり,金属,セラミックやプラスチックでは決して代替が効かない。ところが軟らかさを売り物にする材料はすべて,“軟らかい材料ほど弱い”という一般原則を免れることが出来ない。軟らかい固体にはゲルやこんにゃくなどがあるが,これらは外力を支え,かつ長期間安定的に使える素材ではない。したがって,“外力を支え長期間安定して使用できる軟らかい材料”という命題こそ,軟らかさを使命とするゴムが克服しなければならない宿命的な課題である。

 “ゴムの技術(工学)”とは,一方で軟らかいゴム材料が本質的に持っている様々なマイナス特性(弱点)を克服する総合技術群であり,他方ではその軟らかさが生み出すプラス効果を徹底して追求する学問体系である。現在,我々が手にするゴムとは,そのような工学的,技術的工夫の積み重ねによって初めて高機能と高耐久性を兼ね備えた材料,製品に生まれ変わったものであり,様々な分野で全く独自の存在価値を発揮している。

近代産業に不可欠なゴムの役割

 屋内であっても屋外に出て周りを見渡しても,コンクリートや金属,木材やプラスチックを用いた製品であふれている。では一体,ゴムはどこに使われているかと言えば,ちょっと目にはほとんど見当たらない。これはゴムが縁の下の力持ち的な存在の商品であることを示している。例えば,タイヤがなければ自動車は走らないが,タイヤは自動車本体ほどスポットライトを浴びない。免震ゴムも大地震に対する有効性が証明され採用も進むが,免震ゴムは見えない地下に設置されている。先端機器には必ずと言ってよいほど様々なゴム製品が組み込まれているが外の目に触れにくい。

 硬い素材で出来た構造体の機能を維持するために不可欠の働きをする軟らかいゴム材料,ゴム製品は,人体における血管のような役割を果たしている。血管は心臓や肺,脳などのように直接的な機能を果たす臓器ではないが,それらの臓器が正常に働くための役割が血管であり,命の源とも言える酸素を運ぶために身体中に張りめぐらされている。“人は血管と共に老いる”と言われるが,血管こそが人体のすべての機能を正常に働かせるための伝達機能を有しており,血管の老化は脳,心臓,肺などに重篤な病気を発生させる。

 同様にゴム製品の不具合は機械部品に様々なトラブルを発生させ,製品寿命を大幅に縮める誘因になる。硬い固体部品の集合体である多くの製品では部品が互いに接触,衝突して互いを傷つけ合う場合が多い。それらを一種の緩衝材や潤滑油的な働きでうまくなだめてバランスさせ,本来の機能を発揮させる働きこそがゴムの役割である。

(次ページ:『ゴムは高機能,高付加価値商品』)

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