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連載「ゴムの科学と技術のはなし ~文系と理系をつなぐゴム入門講座~」2

第1章『最初にぜひ知っておきたいゴムの常識』(その1)

ラバーインダストリー 2021-07-17

ロンドン大学クイーンメリーカレッジVisiting Academic Staff 深堀 美英

材料としてのゴムの実態①:天然ゴムと加硫法の発見および合成ゴムの登場

 前回は本連載講座開設に当たりゴムの素晴らしさと大切さのお話をし、本講座で取り上げたい科学と技術についてごく大まかにお話した。ただしそれらの個別的な科学や技術(工学)の話に入る前に、ゴム関連企業で働く者であればまずは知っておかねばならない常識は“製品としてのゴムの位置づけ”である。そこで第1章ではゴムの常識としての3分野を取り上げ、①材料としてのゴムの実態、②ゴムの製造、加工技術の実態、③ゴム製品の実態を、大まかではあるが簡潔に説明したい。

1 天然ゴムの発見と加硫法の発見

 まず知っておくべきことはゴム(天然ゴム)がどのようにして我々の生活に入り込んできたかということであろう。以下に述べることは、後のゴムの化学の稿で詳しく述べることであるが、ここでは天然ゴムの由来と加硫技術の発見、さらにはそれが合成ゴムの開発につながった経緯を、概略お話しておきたい。

 1493年、カリブ海の島(ハイチ)に立ち寄ったコロンブス(出生地不明)は、大きく弾むゴムボールを見て非常に驚きこれをヨーロッパに持ち帰り伝えたが、単に不思議な物として珍重されたに過ぎず、その後長い間、実用化されることはなかった。さらに1736年、フランスのコンダミーヌが南米を訪れた際、原住民がゴムの樹液から防水布やゴム靴などを作っていることを見聞きし、これを報告して注目された。

 1876年にイギリス人ウイッカムがブラジルからゴムの種子を密かに持ち出し、これをロンドン郊外の王立キュー植物園で苗に育てた。その後、このゴム苗をセイロン島(スリランカ)、シンガポール、ジャワ島に移植した結果、栽培ゴムは東南アジア地域に広まり、1900年には4トンが市場に出された。

 ゴムの加硫が見出される前は未架橋状態の天然ゴムは十分な用途がないままに微々たるものにとどまっていた。ところが1839年にアメリカのグッドイヤーが偶然にも硫黄を用いた架橋法(加硫)を発見して情勢が一変し、これを受けてイギリスのハンコックが大幅な改良を加えたことにより現在の加硫法の基礎が固まった。ちなみにグッドイヤーの行った加硫ではゴム100gに硫黄を8g加え140℃で5時間の加硫を要したが、これに酸化亜鉛(ZnO)を加えることにより加硫時間は3時間に短縮された。加硫がゴムと硫黄の化学反応によるという考えが定着するのは20世紀以降のことであり、現在では硫黄と加硫促進剤の併用によって非常に短時間(数分~ 15分)の加硫が可能である。

(次ページ:『2 天然ゴムの採取と工業化』)

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