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【特集】天然ゴムの現在地

大阪取引所、天然ゴムのサプライチェーンの一部として機能

ラバーインダストリー 2021-07-16

 天然ゴムを取引する上で、価格指標の一つとなるのが、日本取引所グループ傘下の大阪取引所が扱う天然ゴム先物だ。国内で天然ゴムの先物取引が開始された1952年以降、価格変動リスクのヘッジだけでなく、検品制度等により品質が担保された天然ゴムを国内の需要家が調達する一つのツール、サプライチェーンの一部として機能している。

 大阪取引所が扱う天然ゴムはRSS(RibbedSmoked Sheet:燻製シートゴム)とTSR(TechnicallySpecified Rubber:技術的格付けゴム)。TSRは2018年10月に上場した。タイヤメーカーを中心に、天然ゴムを使用する製造会社のニーズがRSSからTSRに移行してきていることに対応したものだ。

 「日本に輸入される天然ゴムの80%以上がTSRであり、上場は新たなサプライチェーンの一部、市場として機能するために必要だった」(矢頭憲介大阪取引所デリバティブ市場営業部課長)。

 RSS、TSR合わせて年間で約2万トンの天然ゴムが、大阪取引所を介して実際に受け渡しされている。

 天然ゴム先物は現在、日本の大阪取引所(OSE)のほか、中国の上海期貨交易所(SHFE)と上海国際エネルギー取引所(INE)、シンガポールのシンガポール取引所(SGX)、タイのタイ先物取引所(TFEX)などで取引されている。戦前はロンドン、ニューヨークなどを中心に行われていたが、今それらに天然ゴム先物の取引はなく、その中心はアジアにある。

 日本の取引高は高度経済成長とともに伸長し、1995年には過去最大の年間取引高1,428万7,783枚を記録した。

 「その時期は、ゴムに限らず商品市場そのものが盛り上がっていたことから、取引高が非常に高かった。2000年代初頭までは、天然ゴム先物市場として世界で最も流動性の高い市場だったと言える」(同)。

 ただ、経済成長や巨大市場に支えられる形で、上海の取引高が2003年には日本を上回り、その後も拡大していくのに反比例する形で日本の取引高は次第に減少。2006年に900万枚あった取引は、2010年に300万枚ほどまで落ち込み、現在は100万枚をやや上回る規模になっている。

 「本来日本の市場は、消費地に近く流動性があるというエコシステムの一つとして認識されていたと思うが、タイヤメーカーが直接輸入するといったサプライチェーンの変化、生産拠点を海外に移すなど多様化したことで、その流動性が減少してきている」(同)。

 日本の取引所の位置づけは今どのあたりなのか。

 「RSSは、海外投資家にオープンな先物市場として世界一の市場の地位を維持しており、国際的にも未だ存在感はある」(同)。

 一方、取引を開始して3年目になるTSRは伸び悩んでいる。大阪取引所が扱うTSRは、STRと呼ばれるタイ産のものだが、日本で多く使用されているのはSIRと呼ばれるインドネシア産。ここにギャップがある。ただ、矢頭氏は倉庫渡しのRSSと違いFOB(本船渡し)であることを活かし、中国を中心に海外向けとして拡大できないかと考える。

 「中国はSTRの需要が伸びている。上海の取引所でもSTRを扱ってはいるが、メインではない。アジアのSTR需要、サプライチェーンに入っていければと思う。市場は一度回り始めると、売り手、買い手ともに様々なプレイヤーが参入し、活気が出る。その最初の流動性をどう確保するのか。そのためには、実際の買い手をいかに市場に連れてくるか、そこがチャレンジだと思う」(同)。

 今後、大阪取引所の天然ゴム先物が果たす役割について矢頭氏は「グローバルサプライチェーンの一部として機能することが大前提になる」と話す。

 取引所が今後提供できる価値について「まだ明確に見えているわけではない」としながらも、取引所には取引や受渡制度を決定するルール作りの機能もあり、それをサステナビリティの観点で何か生かすことができないかと模索する。

 「今後、受け渡しで用いているゴムがトレーサビリティやサステナビリティの対応をきちんとしているかどうか、取引所としてその対応は避けて通れなくなると思っている。進め方やタイミングには議論の余地があり、今すぐというわけではないが、世界の方向性は変わらないだろう。ルール作りはサプライチェーン全体で取り組んでいくものと考えている。サプライチェーンの一角を担うものとして、取引所がルール作りに関与していくことは本質的に非常に重要だと考えている」(同)。

 市場へのアクセスを容易にしていく必要性も説く。

 「近年は、金融系投資家のコモディティ市場への参入が増加している。それは世界の流れであり、この流れをつかみ損ねると脱落してしまう。各々の取引所が単体で生き残っていくのは難しいと思う。現状を放っておいては、日本のゴム市場がなくなるという危機感まで持っている。日本の取引所として、なぜ日本で取引するのかというストーリーは必要で、それだけでなく日本、中国、シンガポール、タイ、インドの取引所が連携し、様々な取引ができる、市場へのアクセスを容易にできないかと考えている。ゴムを扱う取引所全体でパイを拡大させていかなければならいないだろう」(同)。

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