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【特集】天然ゴムの現在地

加藤事務所、ベトナム製天然ゴムはサステナブルとトレーサビリティへ

ラバーインダストリー 2021-07-16

 ベトナム最大の国営天然ゴム会社であるベトナムラバーグループ(VRG)等と合弁で「VRGジャパン」を設立し、ベトナム製天然ゴムを販売する加藤事務所の加藤進一社長に、ベトナム天然ゴムの現状を聞いた。ベトナム産天然ゴムは今後、サステナブルやトレーサビリティをキーワードに、世界から注目を集めるかもしれない。

天然ゴム農園と加藤進一社長

現状のベトナム政府の天然ゴム政策

 近年、ベトナム政府は天然ゴムの新たな苗を植えていないが、作付面積に変化がない中でも天然ゴムの生産量が増加しているのは、数年前に植えた木が成長し、1本あたりの収量が増加する時期にあるためだ。ただ、こうした状況もあと10年経つと、今度は一転して木が老いるため、生産量が減少してしまう。そうなる前に新しい木を植えることで、木の平均樹齢を維持していく必要があるだろう。

 ベトナム政府は、天然ゴム価格がキロあたり200円を下回る安い時期には、新規の作付を行わないよう指示している。この2、3年、新規の作付を行っていないのはそのためだ。価格が低迷している時期に新たに増やすことで、より余る事態に陥ることを避けたいと考えている。

 一方で、マーケット価格が200円を超えてくると、天然ゴム農園を経営する政府としても事業を行う意義が出てくる。農園従事者に適切な報酬を払うことができ、その他の事情を考えても200円超の価格はサステナブルと言える。

ベトナム政府は天然ゴムの生産規模をどこまで拡大したいと考えているのか

 最近、ようやく年間100万トンの出荷になった。ベトナム政府としては米、コーヒー、コショウと同様に、天然ゴムは外貨を稼ぐうえで重要な産品と捉えている。150万トン規模までは拡大していくだろうが、ベトナムの国内生産はそのあたりで頭打ちになると思う。

 気候的に、ベトナムで天然ゴムを採取できるのは、南のホーチミン近郊までだ。ただ、近年はベトナムでも工業団地が増加してきており、農地だった地域の町に近い場所は、工業団地に変わってきている。また、ベトナム北部はパラゴムノキを育てるには気温が低く、天然ゴムを作ることはできない。150万トン以上に増やしたくても増やせないというのが実情だろう。そのため、海外進出を検討し、カンボジアやラオスに技術や資本を提供する代わりとして、農園や土地を借用する考えのようだ。

VRGジャパンの状況

 販売量は横ばいだ。日系タイヤメーカーの中国工場向けを中心に販売している。一時はイランへも輸出していたが、イランへの経済制裁によって決済手段が厳しくなり、今は販売していない。

 足元の受注状況は堅調だが、世界的なコンテナ不足によって、コンテナの予約が取りにくい。物はあるが積む船がなく、港で待機している状態だ。日本への荷の到着は、感覚的に2週間遅れになっている。

VRGジャパンとして今後注力すること

 1つ目が特殊グレードの販売強化だ。

 一般的に天然ゴムラテックスからRSS 3を作り、3、4カ月運んでいると、その間に粘度が上昇してしまい、日本に到着した後に素練りが必要になる。ただ、素練りは臭気が強く、購入した側からするとできる限りしたくはない。

 そこでVRGジャパンでは、素練りが不要になるように粘度をある程度のレンジに収めた天然ゴムの新グレードを開発し、タイヤメーカーに供給している。VRGジャパンは、VRGが保有する農園からラテックスを採取し、自社で一貫して天然ゴムを生産しているため、こうした新グレードを開発することができる。開発には2年ほどを要したが、ユーザーの要求事項に応じたグレードを開発でき、販売に繋げている。この新グレードの販売を増やしていきたいと考えている。グレード名は品質活動の5Sにちなみ、5Sグレードと少し遊び心を加えた。

 新グレードの開発は、タイヤメーカーの意見をフィードバックし、現地の意識を変えることから始めた。天然ゴムはこれまで、木からラテックスの採取を開始し寿命に至る30年間同じものを作っていれば売れていたため、誰もそれを変えようとは思っていなかった。ただ、私のように材料に長年携わってきた材料屋からすると、目的のスペックが当然あって、そのスペックに合わせて新グレードを開発するというのは、極めて当たり前のことだ。私からすると、天然ゴムはなぜそれを行ってこなかったのか、誰もやらないのであればそれはやるべきと考え、新グレード開発を進めた。

 天然ゴム生産者は、天然ゴムを農産物と捉えていたが、そうではなく、天然ゴムは工業用品であると意識改革を行った。これまでベトナムの天然ゴムの販売先は、世界ランキングでは10位以下のタイヤメーカーであり、そうすると例えばRSS 3 の粘度の変化といった要求は出てこない。ところがVRGジャパンとなり、日本のタイヤメーカーに販売しようとすると、そうしたメーカーは世間がどんどん変化していくことに対応するためのハッキリとした目標、要求を持っている。今後もそうした目標、要求を産地にフィードバックしながら販売を進めていきたい。

 2つ目はサステナブル、トレーサビリティを売りにしていくことだ。

 VRGジャパンの強みは自社農園であること。そのため、トレーサビリティが100%取れる。天然ゴムのトレーサビリティは不明確なものがほとんどで、どの農園で採取されたものかを追跡することは一部を除き不可能に近い。その点、VRGジャパンの扱う天然ゴムは自社農園のため、トレーサビリティの観点からも全く問題が生じない。実際に採取された農園まで案内することもでき、生産履歴、ロッド管理が全て森までトレースできる。

 来年には各天然ゴムにバーコードをつけ、それをスキャンすると、どの森で採れたもの、生産ロッドが分かるような仕組みを導入したいと思っている。合成ゴムのようにロッド番号があり、何月何日製造、使用期限がいつまでというものが表示されると、少し工業用品に近づける。サステナブルやトレーサビリティは、今後天然ゴムを販売していくにあたって必要であり、それが提供できることは大きな強みになると考えている。世界はSDGsやESG、グリーンケミストリーにどんどんシフトしており、タイヤ業界もこれまで以上に意識を高めていくだろう。VRGは生産者であり、そうした世間の動きに合わせ、天然ゴムの世界で先んじてサステナブルやトレーサビリティを展開できると考えている。

ベトナムの天然ゴムとして今後求められること

 TSR 20を増やしていく必要があると考えている。ベトナムは全体量の10%ほどしかTSR20を生産していない。世界ではTSR 20やRSS 3 の需要が高いが、ベトナムはその他のグレードが多く、世間の需要に対しミスマッチを起こしているのも事実だ。もっとも、これは風習もあり、ラテックスを採取する方法から変えなければならないので、工場を作れば良いという問題ではないが、世界の需要に見合ったボリュームを獲得する上ではTSR 20グレードをより生産できる体制を整えていく必要があるだろう。

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