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連載「ゴムの科学と技術のはなし ~文系と理系をつなぐゴム入門講座~」2

第1章『最初にぜひ知っておきたいゴムの常識』(その1)

ラバーインダストリー 2021-07-17

今さら聞けない科学用語の話① “高分子とは何か”

 本講座では本文中に登場し、しばしば耳にもしているのにどうも今一つしっくりこない、しかし今さら聞くのも恥ずかしいと思われるような科学用語を取り上げ、時々、少し物語風に解説するティータイムを設けることにしたい。どうぞ気楽にお楽しみください。

 私たちが中、高の教科書で習った分子の分子量は数百以下であるが、高分子と言われるものの分子量はその100倍、1,000倍以上も大きく、天然ゴムの分子量は20万~30万である。

高分子とは数多くの原子(多くは炭素原子)が互いに連結して紐状に長く伸びた構造体(普通はその紐が丸まった状態にある)を指す。詳細は後の稿で詳しく述べるが、この紐の動きが無機や有機の分子(粒状塊)の単純な3次元的な動きとは異なり、高分子特有の物性を生み出す。このことを最初に見出したのがヘルマン・シュタウディンガーであり、1953年にノーベル化学賞が授与されている。

 20世紀初頭、多数の分子がつながった高分子という概念はなく、どのような分子も小さな分子が弱い力で集合したものであるとする会合体説が主であった。1920年に出されたシュタウディンガーの論文によって初めて高分子の存在が明らかにされたが当時の学会では出席者全員に反対され、その後も誰一人として高分子説を認める者はいなかった。しかし彼は周囲の冷たい無視にもかかわらず、天然ゴムやセルロースなどの研究を通して高分子(巨大分子)の存在を1つずつ実証していき、1930年になるともはやほとんどの学者が高分子の存在を認めざるを得なくなった。そして1935年、カロザースのナイロンの発明(高分子の実証)によってこの論争は幕を閉じた。

 1957年に準国賓待遇として来日したシュタウディンガーが昭和天皇と会見した際、天皇からの次の質問に強い感銘を受けたと後に回想している。“巨大分子説は多くの現象を説明するための単なる考え(仮説)ですか、それともその存在には厳密な科学的証拠があるのですか、あるとすればどんな方法によってですか”。

 筆者なども時々は理論らしきものを提唱するが、いつも周囲には冷たく無視され悔しい思いをしているので、もしシュタウディンガーの爪の垢が売り出されたら早速、購入、服薬してご利益に預かりたいと密かに狙っている。一方、昭和天皇の問いこそが、すべての研究者が道標(道しるべ)として、自らに問い続けるべき言葉だと受け止めている。

質問をお寄せください

 新連載講座では読者の質問をお受けし、これに筆者が答えるコーナを設けたい。本連載講座でお話ししたことについてはもちろん、日頃、何となく聞きそびれている技術問題などを下記アドレスまでお寄せいただくと、匿名の質問として折々に講座紙上でお答えしたいと思っている。本講座が読者にとってより有効なものになるために遠慮なく活用していただきたい。

e-mail:fukahori-question☆posty.co.jp(☆を@に変えてお送りください)

【プロフィール】
 深堀 美英(ふかほり・よしひで)
 ロンドン大学クイーンメリーカレッジVisiting Academic Staff

 著書:『高分子の力学』(2000、技報堂)、『免震住宅のすすめ』(2005、講談社ブルーバックス)、『ゴムの弱さと強さの謎解き物語(初版)』(2011、ポスティコーポレーション)、『高分子の寿命と予測』(2013、技報堂)、『ゴムの弱さと強さの謎解き物語(第2版)』(2017、ポスティコーポレーション)、『ゴムの摩擦と摩耗の物理象』(2021、ポスティコーポレーション)

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