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連載「ゴムの科学と技術のはなし ~文系と理系をつなぐゴム入門講座~」2

第1章『最初にぜひ知っておきたいゴムの常識』(その1)

ラバーインダストリー 2021-07-17

3 合成ゴムの出現

 合成ゴムは天然ゴムの代替品を合成するという目的で研究が始められたが、その先駆けはイギリス人による天然ゴムの分析であった。1826年にファラデーによって天然ゴムはC5H8の炭化水素から成ることが報告され、1860年にはウイリアムズによりそれがイソプレンであることが確認された。そして1884年にティルデンは弾力性のあるゴム状物質であるイソプレンの合成に成功し、天然ゴム同様に硫黄で加硫出来ることを確認した。さらに1900年になるとドイツのハリスは天然ゴムのオゾン分解を行い、天然ゴムはイソプレンのシス-1,4 付加結合であることを示した。こうして天然ゴムの正体(構造)がほぼ確定された。

 この頃になると自動車工業の急速な発展により自動車タイヤ用ゴムの需要が急速に拡大したが、天然ゴムの供給が十分ではなく、また価格的にも品質的にも安定したものを得ることが難しかった。そのような中で1914年に第1次世界大戦が勃発し、イギリス海軍による海上封鎖を受けたドイツは天然ゴムの供給を絶たれたために、軍事用の必要から合成ゴムの工業化に踏み切らざるを得なかった。こうしてドイツでは国内調達が可能なジメチルブタジエンを原料としたメチルゴムが工業的規模で生産されるようになり、これが最初の合成ゴムになったと言えよう。

 終戦後1930年代になるとドイツ、アメリカで続々と合成ゴムが開発され工業化された。チグラー・ナッタ触媒を初めとする触媒の開発や、乳化重合や溶液重合などの高分子重合法の開発と相まって、ブタジエンゴム(BR)、スチレン−ブタジエンゴム(SBR)、天然ゴム(NR)と同じ化学構造を持つイソプレンゴム(IR)など、多くの合成ゴムが工業化された。

 日本における合成ゴムの工業生産はドイツ、アメリカに比べて大幅に遅れた。これは日本がマレーシア、インドネシア、タイなどの天然ゴムに頼ることが出来たという地理的、政治的背景もあったと思われる。1940年頃から国内のいくつかの工場で合成ゴムが生産されたが、いずれも少量のパイロットプラントのレベルにとどまった。

 日本において合成ゴムの国産化が始まったのは1950年代に入ってからのことであり、合成ゴム製造事業特別措置法に基づき1957年に日本合成ゴム(現 JSR)が設立され、1960年に合成ゴムの生産が開始された。その時の出資比率は政府40 %、民間企業60%であったが、やがて1969年に同社は完全民営化された。一方、民営の株式会社として1950年に設立された日本ゼオンも1959年から合成ゴムの生産を開始した。現在では両社を初めとする民間企業によって日本で必要とされる合成ゴムのほとんどが国内で生産されている。

 第2次大戦後、合成ゴムの生産量は急激に伸びた結果、2018年の合成ゴム生産量は1,530万トンであり天然ゴムの生産量(前出、1,400万トン)を上回っている。世界の合成ゴムの生産量は大きい順から中国、アメリカ、日本、ロシア、ドイツの順になっている。一方、世界のゴムの消費量は1963年以来、合成ゴムが天然ゴムを上回り、日本でも1966年以降は合成ゴムの消費量が天然ゴムを上回っている。現在では天然ゴムの消費量が約40 %、合成ゴムの消費量が約60 %となっている。

 次回はもう少し詳しく合成ゴムの特性を説明し、天然ゴムと合成ゴムがどのように使い分けられているかについてお話したい。

(次ページ:『今さら聞けない科学用語の話① “高分子とは何か”』)

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