巨大地震における病院機能維持等に貢献
日本免震構造協会、能登半島地震の免震建物調査を報告
その他 2024-04-15
日本免震構造協会(中澤昭伸会長)の技術委員会・災害時調査部会(工学院大学・久田嘉章委員長)は4月4日、令和6年能登半島地震における免震建物調査報告会をリモートで実施した。
1月1日に発生した能登半島地震では、同半島を中心に広い地域で甚大な被害が発生した。特に震源に近い半島北部では最大震度7を観測。震源が陸域に近いことで地震動が強く、津波が来るのも早かった。245人が亡くなり、地震から3カ月以上たった今も多くの人が避難所での生活を強いられている。
同協会の技術委員会・災害時調査部会では、この地震の発生を受けて各委員から参加者を募り、免震建物の現地調査を計画。福井工業大学の宮本裕司氏を調査団長として、1月13日(一部11日)~15日の期間、石川県、富山県、新潟県にある免震建物38棟についての調査を行った。
調査は①建物の外観やエキスパンションジョイントを中心とした外周②積層ゴムやケガキ(地震時に地面と建物がどれくらい揺れたかの軌跡を罫書く)装置のある免震層③案内人や現地の人達からの聞き取りで行われた。石川県では震度6強と被害甚大だった七尾市を含む半島中部から金沢などの県南部を中心に、病院や消防署、銀行、防災センターなどを調査。その結果、一部で鋼材ダンパーの塗装の剥がれやエキスパンションジョイントの損傷、鉛ダンパーのクラック、外溝のズレ等がみられたものの、いずれの建物も建物躯体の損傷や積層ゴムの残留変形などの被害はなかった。
富山県、新潟県も同様の結果で、建物、免震層での主な被害はなし。ケガキ装置の動きからも地震の揺れにしっかりと対応し、免震建物としての機能を果たしたことが分かった。また、ケガキ記録から、富山県よりも新潟県の一部地域で揺れが大きかったことも報告された。
最後に、被害が大きかった七尾市にあって免震病棟により病院機能を維持し、地域の拠点病院として医療活動を継続した恵寿総合病院の常務理事・神野厚美氏から、現地報告がなされた。同病院は七尾湾を臨む海に近い立地にあり、本館(7階建)と3病棟、5病棟の3棟を上空連絡通路で繋いだ構造。東日本大震災の被害を見て、本館を免震構造で建て替え2013年に竣工、井戸水のろ過装置や非常用の自家発電装置を設置するなど災害対策を行ってきた。そのため、地震当日も本館では大きな揺れを感じることもなく、棚の物ひとつ落ちなかったという。電気も水も使用でき、手術も出産も行えた。全患者113人(乳児3人を含む)を免震本館に避難させ、地域住民の避難場所としても活用。1月3日には自衛隊の給水も始まり、翌4日には通常通り外来をオープンすることができたという。
神野氏は報告のなかで、1月4日に本館地下の免震層に入った時のことを振り返り、「ケガキ装置の記録を見て、このように動いて私たちを地震から守ってくれたと感じ、涙が出そうになるとともに、非常にきれいな状態の免震層を見て、このままいけるという思いを強くした。工学の知見や技術力を私たちおよび地域にお貸しいただき、心から感謝申し上げる」と結んだ。
免震構造は建物や人命を守るだけでなく、事業継続に貢献することが大きな強みとなる。今回の報告会ではそれを証明する結果となった。
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